3-20 背筋が凍る言葉
「そうだ、ロザリー。君に何かお礼をさせてくれないかな?」
「お礼…ですか?」
「そう、お礼。どんな物がいいかな…?何か希望はある?」
「いいえ、お礼なんていりません。ただレナート様とフランシスカ様のお力になれればと思っただけですから」
そう。私の欲しい物は…決して望んではいけないものだから。
「でも、それじゃ僕の気が済まないよ。借りを作ったままでは申し訳なくて」
借り…本当にそんなつもりでは無かったのに…。
「いいえ、本当に大丈夫です。どうかお気になさらないで下さい」
「だけど…」
尚も言い淀むフランシスカ様に私は言った。
「でしたら…フランシスカ様との仲が進展出来た時に何か考えておきます」
そう、フランシスカ様とレナート様が仲良くなれば、きっと私の事は気にかけなくなるだろうし、私の願いは…2人が幸せになる事だから…。
「そう?分かったよ。それならますますフランシスカと距離が近くなれるように努力するよ」
レナート様が笑みを浮かべて私を見る。
「ええ、そうですね」
平静を装ってレナート様に返事をするけれども、私の心臓はズキズキとまるでナイフでえぐられているかのように痛かった。お願いだから、そんなに優しい笑顔を向けないで欲しい。どうか私に愚かな期待を抱かせないで。
「そ、それじゃ…私、もう行きますね」
「分かったよ。これからお昼なんだよね?僕もそうだから。引き止めてごめんね」
「いいえ、それでは」
そして私はその場を去った。
「お昼休み…どこで過ごせばいいかしら…」
私はポツリと呟きながら、残り1時間の休み時間を過ごせる場所を探す為にあてもなく歩き始めた…。
****
結局、行くあてが何処にも無かった私は教室に戻って来た。
「多分、誰もいないだろうから平気よね」
ポツリと独り言を言いながら、カチャリと扉を開けて驚いた。何とそこにはイアソン王子がいたのだ。イアソン王子は教室の窓際…日差しが差し込む明るい席で、1人机に伏して眠っていた。
…どうしよう。
教室を去ろうかどうか迷った。けれどもイアソン王子は眠っているようだし、私の席とは大分離れている。多分…このままいても大丈夫だろう。
そこで音を建てないように静かに教室へ入ると自分の席に座り、図書室から借りてきた本を読もうと机の中から取り出し、ページを開いた。
「…ロザリー。何読んでるの?」
「え?」
驚いて顔を上げると、イアソン王子が自分の席に座ったままこちらをじっと見つめていた。
「え、えっと…学園の図書室から借りてきた本ですけど…?」
「ふ〜ん…どんな内容の本なんだい?」
「れ…恋愛小説…です…」
こんな事なら恋愛小説なんか読まずに普通の小説にすれば良かった。恥ずかしくなり、思わず顔を赤らめるとイアソン王子が言った。
「ずいぶん早く教室に戻ってきたけど、食事はしたのかい?」
「え?そ、それは…今日は…お腹が空いていないので…」
「そうか。」
だけど、そういうイアソン王子は食事は取ったのだろうか?すると私が尋ねてもいないのにイアソン王子は言った。
「僕はとっくに食事を済ませたよ。3時限目の授業中にね。あの時間は僕の国の母国語の授業だから出ないことにしているんだ」
「そう…ですか…」
それにしても何故イアソン王子は私に構ってくるのだろう?私は平民学生なのだから出来ればイアソン王子とは関わりたくはないのに…。
「ねぇ、ロザリー。ところで君はどうしてそんなに卑屈な生活をしているんだい?君の背後には凄い人がついてるのに」
「!」
私はその言葉に背筋が凍りつきそうになった―。
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