3-18 目撃

「それでね、そこの店で食べたチーズタルトがすっごく美味しかったの。紅茶と本当に相性が良かったわ」


スイーツショップから帰宅してきたアニータが興奮気味に話している。


「そうなの?良かったわね」


「値段もまぁまぁ手ごろだったわ。チーズタルトと紅茶のセットで1000ダルクだったの。お得よね?」


「え?ええ。そうね」


1000ダルク…とても手ごろな値段とは思えなかった。


「今度は一緒に行きましょうね?ロザリー。私今度はアップルパイを食べてみたいから」


アニータは目をキラキラさせながら言う。


「ええ。そうね。今度は行けるといいわ」


本当はそんな余裕等一切ないのに私は嘘をついて返事をした。アニータに本当の事を話して、軽蔑されたくは無かったからだ。貴族でもあるまいし、私みたいな貧乏人の平民が入学しても良い学校では無かったのだ。


「あ~…それにしてもお腹いっぱい。それでも夕食は食べれてしまうんだから嫌になちゃうわ」


その日…ナタリーのおしゃべりは止るところを知らなかった―。




****


 あれから数日が経過していた。あの日会話をして以来、私とレナート様は挨拶を交わす程度の関係でしかなくなっていた。でも、元々身分さがあまりにもあり過ぎる。今まで普通に会話で来ていた方がむしろおかしな状況だったのだ。私は自分に無理にそう言い聞かせ、納得する事にしたのだった。



 それはある昼休みの事―。


今日の放課後、アニータ達とスイーツショップに行く約束をしてしまった為にお金の節約をしなければならなかった。そこで私は寮に忘れ物をしたから取りに行くと言ってアニータ達と学食へ行くのをやめにした。お昼を抜いて浮いたお金でスイーツを食べに行く事に決めたからであった。


「どこでお昼休みを過ごそうかしら…」


そうだ、旧校舎の中庭なら…人が殆ど来る事はない。そこで1時間半の昼休憩を過ごそう。それにあの場所に行けば、ひょっとするとレナート様に会えるかもしれない…

密かな希望を持ちながら、私は旧校舎の中庭を目指した―。



****


「…え?」


中庭へ行って驚いた。何と一番奥のベンチに1人で座るフランシスカ様がいたからだ。


「どうして、こんなところに…?」


思わず木の陰に隠れてぽつりとつぶやいたその時―


「お待たせ、フランシスカ」


私のいる反対方向の渡り廊下からフランシスカ様の元へ向かって歩いて来るレナートの姿が目に入った。手には紙袋を持っている。


レナート様…っ!


ますます私は木の陰に隠れて2人の様子をうかがった。



「何ですか?わざわざお昼休みの時間にこんな辺鄙な場所に呼び出して」


フランシスカ様がレナート様に言う。


「うん。フランシスカに渡したいものがあって…座っていいかな」


「ええ。どうぞ」


レナート様はフランシスカ様の隣に座ると言った。


「…来てくれてありがとう、嬉しいよ」


「命令なら来ないわけにはいきませんから」


「そんな、別に命令ってわけではないんだけど...」


レナート様は困った表情を浮かべながらフランシスカ様に紙袋を手渡すと言った。


「フランシスカ、お誕生日おめでとう」


「まさか、これを渡す為にわざわざ私をここに呼んだのですか?」


「うん、そうなんだけど…あまり僕と一緒にいられるのを王子に見られたくないんじゃないかと思って…」


「!」


するとその言葉にフランシスカ様の表情が厳しくなった―。








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