2−12 相談したいこと

「ふぅ…」


重い荷物を傍らのベンチに置いて3度目の休憩をしていた。学生寮までは後10分近く歩かなくてはならない。


「流石に買いすぎてしまったわね…」


全ての季節の比較的新しく見える古着を買った為に、今月使える分のお金は全て使い切ってしまった。…正確に言えばあの人からの援助金に手を付ければお金には困ることは無い。けれど、それは自分のプライドが許さなかった。私は絶対にあの人から余分な施しは受けないと、この学園に入学した時から心に決めていたのだった。


 自分で用意できるお金に余裕があれば辻馬車を拾って学園まで乗る事も出来たけれども、貧しい私にとっては贅沢でしか無い。


「そろそろ行かなくちゃ…」


私は立ち上がった。今日はルームメイトのアニータが寮に戻ってくる。彼女には私が買ってきた古着を見られるわけにはいかない。もし見られたら…どうしてこの学園に入れたのか、色々聞かれてしまうかも知れない。それだけは絶対に避けたかった。


「よい…しょ」


重い荷物を担ぎ上げると、再び私は寮を目指して歩き続けた。



****


「ふぅ…重い…」


背中に荷物を背負うように、うつむき加減に歩いていると不意に前方から声を掛けられた。


「ロザリー」


「え?」


聞き覚えのある声に顔を上げると、そこには先程帰ったはずのレナート様が立っていた。


「レナート様。何故ここに?」


背中に荷物を背負いながら私は尋ねた。


「うん、ロザリーと別れてから考えたんだけど…あのベンチに座っていたのは、ひょっとすると荷物が重くて休んでいたんじゃないかなと思ってね。そして戻ってみたら案の定、重そうな荷物を背負って歩いている君の姿を見かけたから声を掛けたんだよ」


「あ…」


思わず恥ずかしくなって俯くと、目の前に手を出された。


「?」


顔を上げると、レナート様が笑みを浮かべながら言った。


「ロザリー。荷物持ってあげるよ。貸してごらん?」


「い、いえ…大丈夫です。これは私の荷物ですので…」


私は田舎で暮らしていた時、重い荷物を担いで町に商品を売りに行っていた経験がある。休み休みながらでも運べないことは無かった。


「いいから貸してごらん。君は仮にも女の子なんだから。頼れる相手がいるなら頼った方がいいよ」


「あ…ありがとうございます」


思わず顔が赤くなる。

レナート様に荷物を渡すと、軽々と担ぎ上げて私を見た。


「うん…確かにこれは女の子が持つには重すぎるね。中身は…」


「は、はい…お恥ずかしい話ですが、古着…なんです…」


同じ平民の学生たちにはこんな事話せないけれども、レナート様は仮にも公爵家。私とは身分がとてもかけ離れているので、逆に正直に話すことに対して、抵抗が無かった。


「ふ〜ん…そうだったのか。でも、これほど荷物が重いと言う事は、気に入った古着が買えたって言う事だね」


レナート様が前を歩きながら私に話しかけてくる。


「はい、そうです…」


「そうか。良かったね」


「ありがとうございます」


「あの…さ」


「はい?」


「実は…相談したいことがあるんだけど…」


「相談したいこと…?ですか?」


私の前を歩くレナート様の耳の後ろが赤くなっている。


「うん、実は再来週フランシスカの誕生日なんだ。サプライズでプレゼントをあげたいんだけど…どんな物をあげれば喜んでくれるか分からなくて。他に相談出来るような異性もいないし…それでロザリー。君ならどんなプレゼントを貰えれば嬉しいかな?」


振り向いたレナート様の顔は赤く染まっていた―。


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