2-10 届け物
部屋に入ってどれくらい経過しただろうか…。
コンコン
扉をノックする音と同時に寮母さんの声が聞こえた。
「ロザリーさん、貴女に渡して欲しいと預かったものがあるのだけど」
え?私に…?
「はい。今開けます」
扉を開けるとそこには寮母さんが紙袋を持って立っていた。
「あの…?」
「実はつい先程レナート・ブランシュと名乗る学生さんが貴女に渡して貰いたいと言って、この紙袋を置いていったのよ。呼びましょうかと言ったのだけど、渡してくれるだけで大丈夫と言われて預かったのよ」
「え…?レナート様が…?」
私は信じられない思いで紙袋を受け取った。
「はい、確かに渡しましたからね」
「ありがとうございます」
ドキドキしながら紙袋を受け取る。
「それじゃね」
寮母さんが背を向けて去っていく姿を見届けると部屋の扉を閉めてベッドに腰掛けた。紙袋からは甘い香りが漂っている。…ひょっとするとこれは…?
紙袋を開くと、途端に部屋中にチョコやバニラの香りが漂う。中に入っていたのは美味しそうな様々な種類のクッキーだった。
「レナート様…まさか…わざわざこれを買って届けに来て下さったの…?」
嬉しくて思わず紙袋を握りしめた。
「レナート様、ありがとうございます…」
私は1枚クッキーを取り出すと…口に入れた。途端に甘い味が口の中で広がる。
「…美味しい」
レナート様に感謝しながら、この日私はクッキーをお昼ごはん代わりに頂いた―。
****
翌朝7時―
私は誰もいない寮で1人、目が覚めた。昨夜はベッドの上で11時まで本を読み、眠りについたのだ。
「う〜ん…よく寝た…」
今日は夕方5時にはアニータが帰ってくる。
「フフフ…アニータ、寮に戻るのが嫌だなんて言って無いかしら…」
そしてベッドから起き上がると私は朝の準備を始めた―。
9時―
寮母さんと一緒に寮母室で朝食を食べ終えた私は部屋に戻り、今日の予定を考えていた。…本当ならレナート様に会って、クッキーのお礼を言いたい。けれども私は平民の学生だし、大体レナート様にはフランシスカ様がいる。婚約者のいる男性とむやみに会うわけにはいかなかった。
「仕方ないわ…お礼は明日学校が始まったら教室で言いましょう」
そして私は出掛ける準備を始めた。今日はこれから昨日探せなかった古着屋さんを探しに行こうと考えていたのだ。
「古着屋さん…見つかると良いのだけど…」
私はポツリと呟いた―。
****
10時になったので私は自室を出た。寮母室の前を通りかかると寮母さんに声を掛けられた。
「あら?ロザリーさん。お出かけなの?」
「はい、町まで買い物に行ってきます」
「そう?気をつけて行ってきてね」
「はい、行ってきます」
「行ってらっしゃい」
寮母さんに見送られて私は寮を後にした。
「フフ…今日もいい天気だわ」
学園の門を抜けると、目の前はもう既に町が広がっている。空を見上げれば雲一つ無い青空が広がっている。お父様やフレディ、ピエールは元気にしているだろうか…?
町中をぶらぶら歩き、芝生の公園が見えてきた。その時―。
私はピタリと足を止めた。
「あ…あれは…!」
芝生公園にいる人達を見て、私は目を見開いた―。
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