私の初恋の男性が、婚約者に今にも捨てられてしまいそうです

結城芙由奈

1-1 出会い

 9月1日―


良く晴れた青空の下で大きな門に囲まれた、まるでお城のような美しい建物の前で私は口をポカンと開けて立っていた。


「ここが明日から私が通う学園なのね…なんて綺麗な校舎なのかしら…」


この学園の名前は『リーガルスクール』

私は明日からこの学園で3年間寮生活を送りながら通う事になっている。


「宜しくお願いします」


ペコリと頭を下げると、意気揚々と大きなキャリーバッグを引っ張りながら私は門の中へと入って行った―。



****

  

 この学園は中等学校、高等学校、そして大学が併設されている。遠方の地域からわざわざこの学園に入学して来る学生も多く、半数が寮生活をしている。かくいう私も明日の入学式に備えて、今日から『リーガルスクール』へとやって来たのだ。


『リーガルスクール』では【全ての学生は皆平等で、同じ教育を受ける権利がある】をモットーに掲げている為、上級貴族から下級貴族、そして平民までが通う事の出来る特殊な学園であった。その為、私もこの学園に通う事に決定したのだが…。


果たして本当に学生達は皆平等の立場に置かれていると言えるのだろうか?

何故ならこの学園には『階級』と呼ばれるものが存在しているからである。それが制服に現れていた。例えば王族や上級貴族…彼等や彼女たちの制服は真っ白と決められていた。下級貴族は紺色の制服、そして平民はグレーの制服と決められていたのだ。勿論私が今着ている制服は…当然グレーである。


「本当にこの学園は平等なのかしら…」


大きなキャリーバッグを引っ張りながら歩いていると、同じ新入生と見られる学生たちの姿がチラホラと見えて来た。入学前に事前に送られてきていた校舎の案内図が描かれた紙を見ながら私は女子寮を目指した。


「え~と…私達平民の学生達は西の建物だったわよね…」


 

 私は案内図を見ながら歩いていた為、前方に人が立っている事に全く気が付いていなかった。


ドンッ!


突然衝撃を感じ、私はそこで初めて前方に人がいたことに気が付いた。


「何だよっ!痛ってーなっ!」


乱暴な男性の声で慌てて打ち付けてしまった鼻を押さえながら顔を上げると、そこには紺色の制服を着た学生が私を睨み付けながら立っていた。その学生の周りには他に2名の同じ紺色の制服を着た学生がいる。


「あ…すみませんっ!前方不注意で前に人がいる事に気付きませんでした!」


慌てて頭を下げると、頭上で鼻で笑う声が聞こえた。


「フンッ!何だ…平民の新入生かよ」

「平民のくせに貴族である俺達にぶつかって来るとは図々しい女だな」

「ああ、本当に平民のくせに学問を学ぼうなんて…生意気な奴らだ」


平民…確かに私の今の立場は平民に違いない。けれども…ここまで差別する事は無いのに。思わずじっと3人を見ると、ひとりの学生が睨み付けるように言った。


「何だ?その反抗的な目は…?」


「いえ、別に反抗するつもりは全くありません」


本心で言ったのに、彼等は信じてくれない。


「いいや、お前らは俺達を見てこう思っているんだろう?『中途半端な貴族』ってな」


「生意気だから、少し教育してやるか」


別の学生が突然私の腕を強く掴んできた。


「や…っ!い、痛い…離してっ!」


周囲には遠巻きにしている学生たちがいたけれども、全員私と同じグレーの制服を着ている。…しかし、それは当然だろう。何故ならこの場所は平民の学生たちが暮らす寮の敷地内なのだから。きっとこの3人は…そんな事はとっくに知っていて、わざといちゃもんをつける為にこの場所に来ていたのかもしれない。


「何だ?その口の利き方は…命令するんじゃねえよっ!ここは『離して』じゃなくて、『どうぞ離して下さい、お願いします』って頼むんだろう?」


「一発引っぱたいておくか」


別の学生が言う。

引っぱたく?!

そ、そんな…っ!


学生が手を振りあげたので、目をつぶった途端…。


「やめろっ!」


凛とした声が響き渡った。


え…?


思わず声の聞こえた方向に目をやると、そこには『上級貴族』の証である真っ白な制服を着た学生が立っていた。



「その女子生徒から手を離すんだ!」


その学生は怖気づく3人の学生達に厳しい口調で睨み付けた。



これが、私と彼…レナート・ブランシュとの初めての出会いだった―。

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