7日間で終わるゾンビ生活

火雪

第1話 1週間後

身体が自由に動かされない。水の中で溺れている様な感覚が全身を包み、火傷や打撲、切り傷といった外傷を同時に味わっている。

痛い筈なのに、声も出せない。

肌を掻き毟りたいのに、自由が利かない。

内部からのダメージも感じる。二日酔いに似た吐き気。ムカムカ。血管が破裂しそうな位にドクドクと脈打っている。

これが終わり。

そして始まり。

この1週間、見ていたと同類になるんだ。

こんな事なら、電車で噛まれた時に放置しなければ良かった。何か出来た筈なんだ。映画じゃないんだ。大学病院に行けば、治療出来た筈だ。

………なのに俺は。

会社が大事だと、家族を守るのは俺だと。

綺麗事を吐きに吐いた。

その結果がコレ? この結末がコレ? あんまりだ。こんなの許される訳が無い。

止めろ。

頼むから止めてくれ!

俺の体だろ? 俺の妻だぞ?

何、襲ってるんだよ? 何、喰おうとしてんだよ?


もう全く、体のコントロール出来ない。

意識も薄弱としている。

地獄だ。

地獄だよコレは。何が悲しくて妻を直子を喰わないと駄目なんだ?


直子を掴む、俺の右手。

掴まれた直子の左腕。

直子が泣きながら、必死に叫んでいる。もう言葉が理解出来ない。甲高い反響音だ。視覚もそろそろ駄目みたいだ。直子の泣き顔が歪んでいる。まるで、水の中から見ている様だ。

ああ〜そっか。

俺、泣いてるんだ。

程無くすると、甲高い反響音とは違う、生々しいグシャっという音が遠くでした。その後、ボキッと何かが折れる音も聞こえた。

もうそれが何の音で、何処からしているのかも分からない。ただ、目の前の何かが、泣き喚き、ヨダレを垂らし、失禁しているのだけは分かった。


そして何より美味しそうで、我慢が出来そうに無い。


「バキッ」


頭に何かが、当たった。

多分だけど、当たった。

今、食事をしようとしているのに、邪魔された。単純に怒りを感じた。床に転がっている食事はもう動いていない。

じゃ、邪魔した何かを探そう。

視線を上げると、そこには床の食事より小さい食料が俺を見ていた。

泣いている?

その言葉は分からないが、その食料は泣いていた。

だけど、そんな事は関係無い。

腹が減った。

腹が減って仕方ない。


また甲高い反響音がして、静かになった。

俺は腹が減っている。

食料が何処かにある筈だ。

アレ?

食料って?

なんだ?

俺は?

なんだ?

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