迷える魔女の恋愛事情

なっぱ

プロローグ.はじめましてのご挨拶「はみっ(噛んだ)」

「マリィくん」

 恩師に呼ばれ、マリィは手元の資料から視線を上げた。師の隣に見慣れぬ男性の姿を認めて、エメラルド色の目を瞬かせる。

 立ち上がってふたりのところまで行くと、恩師はその人物を紹介してくれた。

「こちら、錬金術師のシリウス=フェザーくん。キミがボクのゼミに入るのと入れ違いに卒業しちゃったから面識はないと思うけど、キミの二年先輩だったんだよ」

 続いて、シリウスに対するマリィの紹介が続く。

「シリウスくん。こちら、キミと同じくボクのゼミ生だった魔女のマリィ=コットンテイルくん。なかなかおもしろい子だし、キミとも話が合うと思うよ」

 シリウス=フェザーの名前は聞いたことがある。新進気鋭の若手錬金術師だ。学院在学中から優秀さは評判だった。自分も所属していたゼミの先輩だったとは知らなかったけれど。

 そんな人物と面識ができるだなんて思ってもみなかった。

 マリィはあわててぺこりとお辞儀をした。

「あの、はみっ」

 噛んだ。あわてすぎて「はじめまして」の二文字目で盛大に噛んだ。

「……はじめまして。よろしくお願いします」

 真っ赤になりながらも、なんとか言いなおす。ちらり、とシリウスの顔を窺うと、彼はマリィの失態を嘲るのではなく、失笑するのでもなく、ただただふんわりと包み込むような笑みを浮かべていた。

 すごく、いい人っぽい。

 目の前に差し出された手は、握手を求めてのことだと遅ればせながら気づき、おずおずと手を重ねるときゅっと握り締められた。少し骨ばった長い指の感触に、胸まできゅっと締め付けられた気がした。

「こちらこそ、よろしくお願いします」

 やわらかく落ち着いた声がそう言うのを聞きながら、妙にくすぐったい気分になって、マリィはそっと目をそらした。

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