純愛とキスフレ

アサミカナエ

1章 男子高生と初恋

ファーストキス

 人通りの少ない夜の公園で、瀬戸せと奏多かなたは少女を組み伏していた。

 暴れる少女を逃さないないように、掴んだ手首にさらに体重をかける。


「えっ」


 奏多が思わず声を漏らしたのは、地肌に食い込む砂利の痛みのせいではない。

 目の前の少女の顔が苦痛に歪んでいたからだった。


 我に返ると、押さえつけた少女の手首が真っ赤になっている。


「あっ、ごめん!」


 慌てた奏多は尻餅をつくようにして、少女から身を離した。


 少女は不機嫌そうに起き上がると、服についた砂を見せつけるようにしてゆっくりと払い落とした。

 それを、針のむしろに正座した心持ちでチラチラと見守る。


「……ほんとにガキだね。男女に力の差があることも知らないんだから。それとも目の前の人間はオンナじゃないって?」


「わ、悪い……」


 浴びせられる皮肉に奏多はたじろいだ。

 けれど非のありかは明白だ。

 許してもらえるまで頭を下げるしかない。


「痛、かったよな?」


「痛いよ!」


 少女の鋭い眼光は、夜の闇にも溶けることなく真っ直ぐに奏多の瞳を貫く。

 その力強さに。

 頭をハンマーで殴られた思いで、奏多は息を呑んだ。


「ずっと痛くて……。ずっとずっと、ずっと! 心が、痛かったっ!」


 それは初めて聞いた、少女の悲痛な叫び声。

 一言でいえばショックだった。


 ドンッという衝撃に、気づけば胸ぐらを掴まれていて、すぐ目の前に少女の顔が迫っていた。

 息を挟む間もなく唇が塞がれる。

 乱暴に押し付けるだけのつたないキス。


 ファーストキスは甘いと聞いていたけれど、ただ、砂と鉄の味がして。

 泣きたいくらいに不味かった。

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