没落貴族、覇権を目指す。
こもふ
第1話 晴耕雨読。
「ルルー、ルセウスー。お昼よ~」
本を読みながら、色艶よく育ったリュベを風魔法で効率よく収穫していると、後ろから柔らかな母の声がかかった。
煮てよし、焼いてよし、蒸してよしのリュベは我が家には欠かせない。根菜なので、腹にもたまる。甘みが強くて人気の野菜だ。瓶詰などの加工品も人気なので、収入源でもある。
「今、参ります。母上」
荷台に収穫したリュベを載せ、自分ごと音を立てて動かす。父と共に、言葉のみで自動的に動くように改良した荷車は、非常に便利であるが、今後はこの振動をなくすのが課題だ。お尻が痛い。
牛よりはやや早い速度で家の前にたどり着き、荷車を置くと、全身に洗浄魔法をかけて、泥を落とす。洗浄魔法はあまり一般的ではないらしいが、非常に便利だ。
「おかえりなさい、ルル。随分、リュベがとれたわねぇ。明日、売りに行きましょうか」
「そうですね。うちの野菜は質がいいですから、結構高値で売れますよ。そろそろエアデプ芋も収穫時期ですから、明日の朝はそれも見てみますね。一緒に売ったらいいでしょう」
「ルルがしっかりしてて助かるわぁ。じゃあ、お母様、お昼が終わったらリュベの加工品も作ってしまうわね。甘煮の瓶詰が人気でしょう?焼き菓子も一緒に焼こうかしら。お砂糖が少なくてもおいしいから、人気なのよ。あと、手袋と襟巻ができているから、ついでに売ってきて頂戴」
農地があるために食べるには困らないが、どこぞに仕官しているわけでも無い我が家が、現金収入を得るためには農作物を売る必要がある。
手先が器用な母の作る加工食品や小物も貴重な現金収入のもとだった。
「ルル、お帰り。午後は雨みたいだから、この間、本に載っていた実験をしてみよう」
母と一緒に家の中に入ると、車椅子に乗った父がいた。物心をついたことからこの状態だが、椅子は意のままに動くように改良しているので、それほど不自由はないらしい。
端正な顔に柔らかな表情を浮かべ、赤みがかった砂色の長い髪を編んで肩に垂らしている父は、どこか女性的だが、その実、ものすごくタフな性格である。
かつては宮中に出仕していたらしいとご近所のうわさに聞いたが、少なくとも知っているかぎりずっと家にいる。魔道具を作ったり修理したりするのが今の彼の仕事だ。時折、依頼人が仕事を持ってくる。
「はい!」
「まあ、仲がいいわねぇ。ルルはお父様ばっかりで、お母様、妬いちゃう。でも、とりあえず、ご飯にしない?これはヴィ様にはできないでしょう」
「そうですね、父上のご飯はちょっと…」
「おや、ひどいな。僕だって学生時代は作ってたんだよ?」
暗に料理をけなされ、父がムッとする。父の料理は食べれたものではない。見た目はいいのだが、あれは食べ物ではない。
お互いに暫くにらみ合った後、不意に笑いだす。とても、平和な昼時だった。
当時、僕、ルセウス・ミーティア・ルプスコルヌは9歳。晴耕雨読を旨とし、悠々自適に生きる没落貴族の子息であった。
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