第10話 女子寮
最後の試験は、丸太を壊せばいいみたいだが『魔動拳』『魔動転化』『魔動砲』が、どんな魔法なのか全く分からない。
こういう時は、誰かやってるのを見て対策を考える方がいいだろう。
俺は周囲を見渡すと、ちょうどさっきの体育会系の男がいたので、そいつの後ろに並ぶことにした。
無理そうだったら、一旦後ろの人に順番を譲ろう。
そして、暫くするとそいつの番がやってきた。
彼は拳に息をかけるように握り、気合を入れ始めると、彼の拳の周りが白く光り始めた。
「はぁぁぁぁおぉぉぉおぉぉ!!」
相変わらず気合が入っているなー。これまで他の人も見てきたけど、そういう人もいれば、何も言わず淡々とやる人もいる。気持ちの問題なのかな?
「おらぁぁぁ!!」
パーーーーン!!
彼が殴ると、丸太は半分に割れた。
なるほど、これが『魔動拳』というやつか。それじゃあ、あの白く光ったのは魔力かな? あれなら、なんとかなりそうだぞ。
「次、真由さんお願いします」
検定員が俺の名前を呼んだ。とりあえず、『MPCシステム』で丸太を破壊すればなんとかなるかな。
俺は拳に『パワー』と『剛性』を『集中』させ、さらにLEDライトを点灯させて握り、白く光る魔力を演出して殴った。
すると丸太は粉砕し、勢いよく破片が飛び散り、思った以上に丸太は脆かった。
やりすぎたかな?
検定員は少し唖然としていた。
「全く魔力を感じなかったのに、この破壊力は驚きですね」
これまでの試験で検定員はみんな同じ事を言う。
以前、ネトゲ廃人カリバーが、ここの手続きに来た時に『変身魔法』で変身して、別の魔法で魔力をカムフラージュしていると言っていた。
つまり、魔力を周りに感じさせずに、魔法を繰り出す事はとても難しい事で、それは評価される事なんだろう。
結果はどうであれ、魔法試験は突破したからいいや。
あとは面談をクリアすれば、俺は『Cランク』の魔法使いになれるわけだ。
魔法全然使えないけど。
――そして、俺は面談を受ける為校舎に入り、応接室に向かった。
建物は半円を描くように5棟並んでおり、それぞれ1階の廊下で繋がって、あとは別館の講堂で構成されているみたいだ。
その校舎の両隣の建物は豪華な感じだが、両端側はボロい。まぁ、豪華って言っても、よく見ると微妙だけどね。
応接室の前には、もうすでに何人か順番待ちをしていた。
さて、面接対策をどうするか? 今回は経験的なものは何も無いから、熱意で勝負した方がいいかもしれないな。
しかし、面接の回転率が早く、頭の中を整理する間もなく俺の番がやって来た。
「失礼します!」
「えーと、あなたはCランクの真由さんですね」
「はい! よろしくお願いします!」
「あなたは『魔法生産部門』と『魔法戦士部門』どちらを希望しますか?」
おいおい、いきなり想定外の質問来たぞ。
『魔法生産部門』ってなんだ? 魔法使いと言えば『魔法戦士』の方を想像していたけど。なら『魔法戦士』でいいか。
「魔法戦士部門でお願いします」
「分かりました。本校では授業料、最低限の生活費は補助します。その代り魔法戦士部門の場合『討伐隊』のサポートの依頼があれば、受けてもらいます。Cランクだと依頼が来ないかもしれませんが」
「はい」
「尚、来年の魔法試験でBランクに昇格しなければ、補助は出来ませんので注意を。その場合は自己負担で継続するか『魔法生産部門』に変更になりますので」
とりあえず、最初の一年はなんとかなりそうだ。というか俺、もう合格しているんだ。
「授業は1日に6回ありますので、明日から自由に選択して出席して下さい」
「はい」
大学の単位制みたいなものか。
「では、今日から建物の一番端にあるB、Cランクの女子寮の408号室に入って下さい」
「はい」
『女子寮』という言葉でドキっとしてしまったが、女である事を忘れてしまう。
でも、今日から寮に入れるのは助かった。きっと、入学式なんて無いんだろうな。
「今日はこれで終わりです。お疲れさまでした」
「ありがとうございました。ではこれで失礼します」
俺が部屋を出ようとした瞬間、面接官が何かを思い出したように俺に声を掛けてきた。
「あ、すみません、最後に一つ聞いてもいいですか?」
「何でしょう?」
「真由さんは『専属魔法』の『サイレント魔法使い』ですか?」
何だよ、専属魔法? サイレント? 下手に肯定して、深堀されたら困るから否定しておいた方が無難かな?
「えーと……違うと思われます。はい」
「すみませんね。検定員から『魔力』を感じさせずに、魔法を発動出来る者がいると聞いたから、もしやと思いまして」
「いや……そんな大したものでは……」
「引き留めてしまって、すみませんね。もう行っていいですよ」
うーん、魔力を感じさせない事は凄いことなんだろうか?
だとしたら、魔法の前では無力だと思っていた俺の『MPCシステム』は、この世界でも十分通用するんじゃないか?
よし、でも何とかなったし上出来だろう。もうあとは部屋でゆっくりしたいね。
女子寮の入るのはちょっと緊張するねぇ。
なんかもう夕暮れだが何時か分からない……。
そもそも、時計が無い。試験も時間指定無かったし。
それにしてもこの建物、柱があまり無いな。地震で潰れたりしないだろうな……。
そして、薄暗い廊下を出ると、いよいよ男性禁制の女子寮の入り口に着いた。
校舎の両隣の建物は『S、Aランク』の寮で、それぞれ男女に分かれている。
さっき見た豪華な建物はこれだった。
『S、Aランク』の女子寮の廊下、明かりが灯しているので明るく、じゅうたんが敷いてあるから華やかだ。
やっぱり、Aランク以上の魔法使いになると、待遇が変わってくるんだろうか?
俺は『S、Aランク』の女子寮の廊下を横断して、端にあるB、Cランクの女子寮に着いた。
そんな気はしていたが、やっぱり、薄暗くてボロイ感じだ。
これが格差というやつか。
傍に階段があるので、それを登って4階を目指した。
所々にある明かりは、壁の穴から青白い炎が噴き出るような感じで、これも魔法なんだろう。決してLEDやハロゲンでも無さそうだ。
ようやく、おんぼろの階段を昇って4階に着き、お化け屋敷みたいな廊下を通ると、ボロアパートみたいな部屋の扉の前に着いた。
確か408号室だからここだよな……。
まぁ、部屋の中は女の子らしい感じになってるだろう。カーテンとか、部屋の模様とか可愛くなっていて……。
そして、部屋のドアを開けると……。
「牢獄か!!」
思わず叫んでしまったけど、まさかここまで酷いと思わなかった。
8畳ぐらいの長細い部屋で、シングルベッドが1つと、机と椅子が2つあるだけだ。
しかも、壁と床は古い木造のような茶色か黒色なので、窓はあるが暗い感じで、とても女子寮とは思えなかった。
とりあえず明かりを付けたいんだが、電気のスイッチはどこだ?
俺は辺りを見渡したが、スイッチがどこにも無かった。
やっぱり、魔法で明かりを付けるのかな? まぁ、いいや。今日はさっさと寝よう。
俺はジャージに着替え、ベッドに座りながら持って来た乾パンを食べ、あの可愛い水筒のお茶を飲んだ。
まさか、あの可愛い水筒が役に立ってしまうとは……。
それにしても、このベッドの布団薄いなぁ。
S、Aランクとこれだけの差があるということは、この世界は階級社会で、格差が激しいのかもしれない。
――俺はしばらく、部屋で休んでいたが、もうすっかり夜になった。
もちろん、明かり1つ無いこの部屋も真っ暗で、逆に窓の外の方が明るいぐらいだ。
暇だ……。
今日は疲れたし、こんなに暗いんじゃ真由の身体で目の保養は出来ないし寝るか。
俺は色々と疲れたせいか、すぐに眠ってしまった。
――そして、辺りが明るくなってくると、俺は目を覚ました。
朝は結構冷えるのになぜか暖かく、柔らかい感触が身体全体で感じとれる。
俺はまだ目を閉じたままだったが、頭がだんだんと冴えてくると、すぐに異変に気付いた。
誰かを抱いている!!?
いや! 相手も俺を抱いている!!
寝息が口に当たるのを感じる。 俺は、恐る恐る目を開けてみた。すると、目の前に居たのは……。
美少女だ!
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