第2章 ネスタリア学園①

第9話 魔法試験

  無垢朗から貰ったこの箱には、期待していたのに、まさかのネタだったとは絶望だ。

 これからどうしようか……。



 ドーン、パーン


 

 ん? なんだ? 学園の方から花火みたいな音が聞こえる。もしかして、もう始まっているのか!?


 俺は急いで森を抜け、ネスタリア学園の前に到着した。

 校舎は、いかにも中世のヨーロッパの雰囲気が漂うが、何か地味だ。華が無いというか。


 グラウンドには30人ぐらいの受験者らしき制服を着た人と、他には試験官ぽい人が数人いた。


 やばい、もう始まってやがる。いきなり「もう受付は終了しました」って事にはならないだろうな?

 

 俺は急いで受付を探すと、5~6人並んでる列を発見し、受付と書かれた机に座っている人がいた。多分あれだろう。俺はその列に並んだ。


 前の人を観察していたら、紙みたいな物にサインしている事が分かった。しかし、問題は魔法でサインしているという事だ。

 人差し指を紙になぞるような感じで、自分の名前を書いている。


 いきなりやばいなー。どうする? でも、サインぐらい魔法じゃなくてもいいよな?


 暫くすると、俺の順番がやって来た。

 


「あなたの名前をお願いします」

「はい、真由です」

「ではここにサインをお願いします」

「はい、ここですね。真由っと。これでいいですか?」


 

 俺は普通に、鞄からペンを取り出し、これまた普通に名前を書いた。しかし、受付の人は何か不思議そうにペンを眺めていた。



「これは何ですか?」

「これはペンです。This is a pen!」



 まさか、英語で習う絶対に使わない構文を、使う時が来るとは思わなかった。



「ペン? それは真由さんが『デザイン』したのですか? サインは『魔動転化』ですかね?」



 何を言うとんねーん!! 普通のペンやろー!! ってツッコミを入れそうになったが、この世界にはペンが無いのか? というか、何て答えたらいいんだ!? 


 ペンをデザインしたとか、魔動点火? 転化? よく分からないが、ここは合わせておくか。



「はい、まぁ、そんな感じですわ。はっはっはぁ」

「凄いですね。全く魔力を感じませんでしたよ」

「そ、そうなんですよ。よく言われます」

「真由さんは、タスカニ地方出身なんですね。かなり遠い所から来たのですね」

「へ?」



 何だよ! そういう設定があるんだったら、事前に説明しとけよ、ネトゲ廃人め。



「あ、あそうなんですよ。大変でした」 

「それでは真由さん、順番に各項目の魔法試験を受けて下さい。1つでも落とすと失格になりますので。すべて合格されたら、校舎の応接室に行って、面談を受けて下さい」


「分かりました」



 面談って、面接があるのか? それに1つでも落とすと、即終了かよ。

 それで1つ目の試験内容は……えーと、この試験は選択制のようだ。一つ目は魔法で『火』を出す。二つ目は『雷』を出す。三つ目は『氷』を出す。


 いきなり無理じゃねー。


 でも悩んでいる時間は無い。すぐに順番が回って来そうだ。

 俺は持ち物の中を使えそうな物は……。


 あ! このライターなら火の試験、なんとかなるんじゃねー。

 あとは演技でそれっぽくマジシャンのように火を出せば、いけるかもしれない。


 とりあえず、前の人のを見て考えるか……。ちょうど俺の前は、体育会系の男で火を選択したみたいだ。



「はあああああああああああ!!! ぬおおおおおおおおお!」



 今にも何かに変身しそうな気合だ。変身っと言っても、魔法少女みたいなものではなく、バトルアニメの「オラァァァ怒ったぞ!!」みたいな感じだ。



「うおおおおおお!! ファイアー!!」


 ゴオオオオオー



 手のひらから、ピンポン玉ぐらいの大きさの火が出た。

 変身こそしなかったが、魔法ってあんな感じでいいのか? 俺のイメージでは「炎の精霊を、我に……」みたいな感じだと思ったが。


 一応、あいつとやったように真似しようと思うんだが、もしあいつが変だったら、それを真似た俺も変になる。もう少し様子を見たかったが、順番が来てしまったから仕方が無い。

 

 まぁ、あいつがあれでいけたんだから、いけるんだろう。


 俺の番が来ると、ライターを両手で覆うように隠した。



「はあああああああああ!」



と叫びながら、周りの様子を伺ったが、問題無さそうだ。



「うおおおおおおおお!」


 カチッ


「はあああああ、あ、あれ?」


 カチッ カチッ カチッ カチッ



 クソ、なんで付かないんだ? やばい、検定員が首を傾げているぞ。



「やばい! 早くつけ!」


 シュボ


「あ、付いた! えーと……あ、ファイアー……」

「おお! 炎は小さいが、全く魔力が感じられません」



 魔法使ってませんからね。



「これは素晴らしいですね」



 こいつ、わざと言ってるのか。




 ――こうして俺はこの調子で次々と試験をパスしていった。

 

 光を出せと言われたら、LEDライトを使ったり、3秒間宙に浮けと言われたら『MPCシステム』で脚力に『パワー』を『集中』させて、高くジャンプした。


 『MPCシステム』はともかく、ライターとLEDライトを使った試験は本当に滑稽だった。なのに合格出来るという事は、そもそもこの世界には、そういう物が無いのか?


 そして、いよいよ最後の試験を迎えた。


 最後の試験は(魔動三原則である『魔動拳』『魔動転化』『魔動砲』この3つから1つ選択し、丸太を破壊せよ)のことだ。


 うーん、分からん。

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