第3話 異世界への任務

 ジャージ男が何か事情を知っていそうな発言をしたが、俺はその後の和田司令官の発言の方がもっと驚かされた。



「ということは……彼も異世界から来た魔法使いということか」

 


 正直、和田さんから『異世界』『魔法使い』という単語を聞くとは思わなかった。  まずイメージが合わな過ぎる! 

 いやいや、それ以前に異世界とか魔法とかマジで言っているのか? でも、和田さんは仕事で冗談を言う人ではないが。



「ああそうだ、紹介しないとね。彼は異世界から来た魔法使いのカリバー君だ」

「どうもよろしくね」

「えっ!? い、いえ、こちらこそ」 



 さらりと紹介されたが、このジャージ男も異世界から来た魔法使いで俺は驚いた。まさか組織内でこんなやつがいたとはな。



「いや驚いたよ。彼を魔法使わず追い詰めるとはね。あれは『テレポート』で逃げたんだろうね。その魔法が使えるのはSランクの魔法使いだよ。一応僕もSランクだけどね。ランクはD⇒C⇒B⇒A⇒Sに分けられているからね」


「というか、なんでそんなに流暢に日本語が話せるんだ? 昔から居たのか?」


「違うよ。最近来たんだ。僕は日本語というものが分からないけど、魔力で意思伝達しているんだ。文字だって分かるよ。もちろん、知らない物や概念等の理解を超えるものは無理だけどね」



 つまり、どちらか魔力を持てばと言葉の壁が無くなるらしい。なんて羨ましい。だから今も俺と普通の会話が出来ているんだろう。



「それでカリバーさんは何しにここへ?」


「僕はたまたまテレポートでここに来たんだよ。ここの世界は魔法が無くても、科学? でこれだけ発展したこの世界に興味を持ったんだよ。本当に不思議だよ」


「いや、魔法の方が不思議だが」


「僕はこの科学の世界にとても感銘を受けたんだよ。だから、この世界で生きることにしたんだ。組織に協力する代わりに、生活をサポートしてもらってるんだよ」



 異世界人から見れば、この世界もそういう風に感じるのか。

 まぁ、魔法が当たり前の世界で、電化製品、自動車、ロボットは珍しいかもしれない。

 


「あ、そろそろイベントが始まる時間だね。ゲームに戻らないと」

「ネトゲにハマっただけだろ!」

「本当この世界は素晴らしいね」 

「異世界へ帰れ!」



 色々と謎の多いカリバーさんだが、まさか、単に本気でゲームにハマって、異世界に戻れなくなったわけじゃあないだろうな……。 



 カリバーさんが部屋から出ようとすると、和田司令官が制止した。



「まだ話は終わっていない。もう少しここに居てくれ。それで杉田君には、異世界に行ってもらう」


「任務ですか?」


「そうだ。異世界に行って、組織に侵入したSランクの魔法使いの調査と、魔法学園に入学して、魔法を習得して欲しいんだ」


「えっ!!? 魔法使いになれるのですか!?」



 ぶっ飛んだ内容になって来たが、こういう冗談は、和田司令官は言わない人だから信用したが、流石に自分が魔法使いになれるという話は疑問が残る。

 


 でも、こうやって今美少女になっているんだから、あり得る話かもしれない。



「信じられないと思うが、なれるそうだ。そうだねカリバー君」


「うん、誰でもなれるよ。生きているものすべてに魔力が宿しているからね。もちろん、植物もだし、鉱物にも魔力がある。ただ、この世界の魔力は弱いけどね」


「それだったら、この世界にも一人ぐらい魔法使いがいてもおかしくないか?」


「魔力を引き出すには、魔法使いの魔力によって『起動』させてあげる必要があるんだよ。しかし、この世界には魔法使いがいないから、誰も魔法を使えないんだ。だから君には後で、僕が『起動』させてあげるね」



 よく分からないが、魔法の電源スイッチみたいなものがあるんだろう。



「2日後に入学出来るようになるから、僕がその辺りの手続きとか、準備しておくね。では、僕はこれで失礼するね。約束があるから」


「えらく急な話だな」

「それと僕がこの世界にいることは、内緒だからね」



 カリバーは一礼して足早に退出した。



「そういう事で杉田君、2日後に異世界に行ってもらうよ」

「はい、でも、カリバーさんに直接、魔法を教えてもらった方が早いのでは?」



 すると、和田司令官は俺の傍まで寄って来て、周囲を確認するような素振りを見せた。何か言いにくそうだ。



「いや、今回の異世界人侵入の件もそうだが、悪意ある魔法使いがこの世界にやって来た時、彼らが未知の存在だけに、我々が対抗することは難しくなる。それはとても脅威になるかもしれない。だから、君に異世界に行ってもらい、彼らの世界を調査して欲しいんだ」



 どうやら和田司令官は、異世界から来た魔法使い達を脅威なものと感じているんだろう。確かに魔法みたいなチートを使って、大勢でけしかけられたら、太刀打ちできずに支配されてしまうかもしれない。


 だから、俺が異世界や魔法のことを知ることで、いざと言う時の対抗手段にしたいというわけか。



「なるほど。解りました」

「頼んだよ。杉田君と有山君もう下がっていいぞ。準備に取り掛かってくれ。戸田君はこの前の状況報告してくれ」



 そして、俺と後輩のあいみは部屋を出た。司令官の前では余計な話はタブーだから、無垢朗とあいみと話す機会が無かった。


 

 やっぱり思い起こしても、俺が美少女になる理由が見当たらないんだよなぁ。もうこの後はあいみをからかって帰宅しただけだし。まさか、それがいけなかったわけでないよな?



 部屋を出た直後に、あいみが声を掛けて来たんだよなぁ。



「浩二先輩! ちょっと待って下さーい!」

「うん? こんな所に女子高生?」

「あー、また言った! あいみは立派な社会人ですぅ!」



 あいみは本当に見た目がJKだから、よくからかってしまう。



「うん、あいみはちっこくて可愛いよ。よしよし」

「うぅ……。もう先輩! あいみをからかい過ぎぃ!」 

「ごめんごめん。で、何の用?」



 怒って、顔を赤くしてふくれているのも可愛いのだ。



「無垢朗さんが先輩にスタミナドリンクを渡してくれって」

「おお! 今日は結構走ったから助かるよ! あいつの薬剤はよく効くからな」  

「先輩、今日はゆっくり休んでください」

「ああ、ありがとう」



 無垢朗は、薬剤担当をしているから、今日みたいに体力を消費した時に、スタミナドリンクをよく貰っている。これ飲んで寝ると明日の朝はスッキリさぁ。


 まさか、このドリンクのせいじゃないだろうな?



 この後は、特に何も無かったし、スタミナドリンクを飲んで就寝した。そして、起きたら美少女になっていて現在至る。



 うーーん、美少女になるというファンタジックな事が出来そうなのは、やっぱり異世界人の魔法使いが濃厚だが、動機が全然分からない。


 美少女が大好きな無垢朗には動機がありそうだが、そんな技術は無い。もしあったとしても、真っ先に自分で試すだろう。そういうやつだからな。


 とりあえず、無垢朗の事なら本人に聞いた方が早いか。

 

 俺はスマホを取り出し、無垢朗に電話で聞いてみる事にした。



「はい、もしもし?」



 当たり前だが、無垢郎が普通に電話に出たが、俺は声を出す事が出来なかった。なぜなら……。


 今の俺の声は女の子の声だよな? 


 いくら俺のスマホだからと言って、この声で応答しても分からないんじゃないのか? まだ無垢朗が犯人かどうか分からないし。ここは慎重にいくべきか……。

 

 

「もしもし? どうした浩二君!? 美少女にでもなったのかい?」

「やっぱりお前かーーーーい!!」

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