さよなら、愛しい人

綿麻きぬ

消えた気持ち

 俺はもう好きじゃないから、だから、俺のこと好きじゃなくなって欲しい。


 そう言われた。そう言われるのは分かっていた。そうなろうと努力した。いいや、努力なんてしてない、君が私の元に帰ってくると信じた努力していた。


 もう無理だって分かっていた。分かっていたけど、諦めきれなかった。かすかな希望に賭けていた。


 でも君はもう決めてたんだね。私と別れることを、距離を置くことを。


 きっと君にはいっぱいいっぱい負担をかけた。好きという感情では耐えられかったほどの負担をかけた。


 ごめんね。ごめんね。


 もうあの時は戻らない。私が壊したのに、私が壊したのに。いつまでもそれに縋りついてしまっている。


 いいや、合わなかったんだよ。元から。君は自分勝手だった。私との通話を放置して、友と遊んだ。私の辛さを分かってくれなかった。私を束縛しなかった。


 私は怖かったよ、好かれることが。でもそれは最初だけだった。


 私を君が大事にしてくれてるのを感じていった。それに応えようと私も頑張った。頑張って通じ合ったと思った。


 でも、私が甘えてしまった。所詮、好かれていても他人なのだ。それを思い出せなかった私が悪い。


 疲れをぶつけてしまった、自分の中で隠し続けないといけないものをぶつけてしまった。


 それを君は受け止めようとしてくれていた。実際、受け止めてくれていた。


 君にだって限度はあった。無限に受け止めてくれる魔法の大切な人ではない。あくまで有限に受け止めてくれる赤の他人だ。


 それに気付かなかった私は子供だった。


 君の限界を超えても、私は気づかなかった、自分を守るのに必死だった。だからだろう、君はもう限界だった。


 そこから君の気持ちは消えていった。当たり前だ。


 それに私は気づかなかった。まだ、まだ、まだ君は私のことが好きだ。まだ、元に戻る。まだ、大丈夫だと信じていた。


 やっと気づいたよ。もう君の気持ちは戻らない。


 だからさ、私は大人になるよ。君のことはもう諦めて、辛さや疲れはもう出さないよ。君の幸せを願うよ。じゃぁね、愛しい人。

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さよなら、愛しい人 綿麻きぬ @wataasa_kinu

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