1.時計職人さん


2017年 12月10日 15時39分 投稿


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チクタクチクタク

時計職人さんのおうちでは、今日も時計の音が聞こえます。


おうちにあるたったひとつの窓。外から覗き込むと、見えるのは机に向かって作業をしているおじいさんの姿。おじいさんはいつも、時計を作っています。まず「形」を作って、ぽわぽわの瓶から淡く光る「光」を取り出します。それを埋め込んで、時計は完成します。おじいさんはチクタクと音を立てながら、黙々と作業を続けます。


時計職人さんのおうちでは、沢山の時計を作っています。世界中から集めた材料を、くっつけて組み合わせて壊して作り直して、新しいものに生まれ変わらせます。そしてできたものを、世界中に送ります。時計はチクタクと動き、大きく成長して、形を変えてゆきます。壊れて、もしくは時間切れで動かなくなると土に還ります。それを時計職人さんが集めて、また時計を作ります。


おうちには一人の女の子が住んでいます。女の子は茶色い木の机と椅子に座って足をぶらぶらと揺らします。手に持ったコップも揺れて、中のミルクがちゃぷんと音を鳴らします。

チク

おうちから時計の音が消えました。どうやら窓際のおうちにたったひとつの時計が止まってしまったようです。女の子はコップを置いて、またかというように立ち上がります。この時計は他の時計と「形」が一緒だから、他の時計と同じように時間切れを起こすのです。女の子は止まった時計を新しい時計に作り変えます。こねて叩いて潰して押して。新しい時計の「形」ができました。女の子は机の上の、ぽわぽわの瓶より輝く「光」が入ったきらきらの瓶を手にして、ひとつ光を取り出します。それを真ん中にあてがうと…

チクタクチクタク

時計が動きはじめました。それを窓際に置いた女の子は、満足気に微笑んで、きらきらの瓶を覗き込もうとしました。すると

ガチャン

手が滑って、きらきらの瓶が落ちてしまいました。中に入っていた「光」は、全てパリンと砕けてキランと空気に溶けてしまっています。きらきらの瓶の「光」は特別な光です。女の子の家に置いておく時計にのみ使うもので、ぽわぽわの瓶の「光」とは似て非なるものです。偶然女の子が手にすることができたもので、また手に入れることは難しいでしょう。ですからもう、おうちの時計を作ることはできません。


チクタクチクタク

時計職人さんのおうちでは、今日も時計の音が聞こえます。





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〜解説〜

・「おうちにあるたったひとつの窓」の窓際におじいさん。そして4段落目には「窓際の時計」。

→おじいさん=おうちの特別な時計

・「形」=身体。「光」=命。時計=人間。ぽわぽわの瓶の「光」は普通の人間の命。きらきの瓶の「光」は時計人間を作る特別な時計人間の命。けど、その特別な時計人間は普通の時計人間の身体で寿命も普通。

・女の子はチクタクと鳴らない。

→女の子は時計人間じゃない。神様。

・きらきらの瓶が割れてもうおうちの時計が作れない

→今の特別な時計人間壊れるまで死ぬまでは、時計人間が生まれる。けど今の特別な時計人間壊れたら死んだら時計人間は生まれない。

→人類滅亡


今は時計の音が聞こえて時計は動いてるけど・・・

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