逆玉契約結婚!~女主人とメイドの百合を守るため僕が仮りそめの夫になります!~

藤ともみ

第一章 百合好きの子爵令息、突然の逆玉求婚をされる!

第1話 貴族の令息は百合がお好き

~~~

『メアリー、リボンが曲がっていましてよ?』

アーデルハイトお嬢様の琥珀色の瞳がわたくしを射抜くように見つめた。

『は、はい……!申し訳ございません!』

『こちらへいらっしゃい。わたくしが直して差し上げますわ』

 お嬢様の白魚のような指がわたくしの髪に触れる。小さな吐息がわたくしの首筋にかかる。嗚呼、いけません、いけません……!お嬢様はお優しいからわたくしの髪のリボンを直してくださっているだけ わたくしはお嬢様に忠実に仕えるただのメイド。それなのにこんなに胸が昂ってしまうなんて……!

『メアリー』

『はいっ、お嬢様……!?』

『かわいいお顔が林檎のように真っ赤になっているわよ?』

 お嬢様が、ふっと笑う。その美しき唇を、わたくしの頬にそっと寄せて……

~~~


「お嬢様×メイドの百合って……イイよね……」

 老紳士【銀鷲ぎんわし卿】の言葉に、一同は深く頷いた。今日は週に一度の読書会。彼ら同志は互いに好きな百合……女性同士の耽美な恋愛や大きな友情の物語をこの国ではそう呼称する……作品を持ち寄っては語り合う至福の時間を過ごすのだ。初めは数少ない百合作品を血眼になって探し出しては討論するだけの会だったが、最近は自分達で創作した百合作品を持ち寄って皆で観賞することも多くなってきた。今日は若き【青薔薇卿】が書いてきた、メイドのメアリーと伯爵令嬢アーデルハイトの百合作品を皆で堪能している。

「身分違いの想いに悩むメアリーにたいして、そんなもの関係ないとばかりに踏み込んでくるアーデルハイト嬢が……良い……」

「恐れ入ります……」

 【青薔薇卿】が謙虚に頭を下げる。

「しかし【銀鷲卿】の、粗暴な女盗賊×真面目な女僧侶も素晴らしかった。」

「そう言っていただけると嬉しいです。盗賊は会ったことがないので想像だけで書いているのですがおかしなところは無いでしょうか?」

「我々も実際に会ったことはありませんが、女盗賊さんの粗暴だけど本当は優しくしたい不器用なところが丁寧に表現されていて良かったと思いますよ」

【緑葉卿】……シグムントの感想に、【銀鷲卿】は照れ臭そうにはにかんだ。

「ええ……あの二人の間に挟まって、貴族の男の良さを両者にわからせてみたいものです」

 ……【紅玉こうぎょく卿】の一言に。暫しの沈黙が、その場を支配した。

銀鷲卿、青薔薇卿、そして緑葉卿ことシグムントはゆっくり微笑み合い、不埒な発言をかました紅玉卿を見つめ……


「今日の読書会もとても有意義でしたね!」

「ええ、途中で不埒者にうっかり氷魔法をぶっぱなしてしまいましたが、まあ正当攻撃正当攻撃……」

「あいつのことはもう忘れましょう」

 彼等は来週もう一度集まることを約束して、軽い足取りでその場を後にした。

「ヨーゼフ坊ちゃま、お迎えにあがりまし死んでる!!」

紅玉卿ことヨーゼフの執事が、読書会のサロンでボコボコになって倒れている主人を発見した。しかし、ヨーゼフが百合に挟まりたいなど口にした大罪が発覚したので、その場にいた全員はお咎め無しであった。


そんなことよりも、その読書会直後に、緑葉卿……シグムント・アインシュタインにふりかかった事件のほうが重大であった。

邸に帰ると、ローゼンブルク侯爵家の馬車が玄関に停まっていたのである。

ローゼンブルク侯爵といえば、未婚の麗しの女領主であり、その美貌と手腕は外国でも評判になっているほど。そんな女性が、自分に会いに来たと言うのだ。シグムントと彼女に面識は無い。果たしてどうなることやら――

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る