【File25】赤い地下室
【00】地下室の女
窓の向こうで青白い稲光が瞬き、夜闇の中に捻れた庭木が浮かびあがる。
少年は轟く雷鳴と共にシーツで顔を覆った。
するとベッドの縁に腰をかけたエプロンドレス姿の女性が、優しい声で語りかける。
「坊っちゃんは怖がりですねえ。男の子なのに……」
彼女は家政婦だった。仕事で忙しい少年の両親の代わりに家事全般を請け負っている。
この日も週末の夜だというのに、館には少年と彼女しかいなかった。
「あまり怖がってばかりいると“地下室の女”がやって来ますよ?」
「ひっ……」
少年がかすれた悲鳴をあげると、再び稲光が瞬く。
地下室の女……そんなものは、存在しない。
家政婦である彼女が少年を怖がらせるために創造した怪物。
それらと何ら変わらない、虚構の存在のはずだった。
家政婦はそっと少年の前髪を払う。
「私、もう行きますけれど、坊っちゃんはこのまま大人しく寝てくださいね?」
恐る恐る頷く少年。
家政婦は満足げに頷き、きっ、と眉を釣りあげて人差し指を立てる。
「それから、ファミコンゲームは、勝手にやったら駄目ですよ?」
「うん……」
「それじゃあ、おやすみなさい」
家政婦がベッドの縁から腰を浮かそうとした、そのタイミングだった。
「きゃっ!!」
ベッドの下からひょいと飛び出たシャム猫が、唐突に彼女の膝の上に飛び乗ったのだ。
間抜けな悲鳴をあげて驚く家政婦に、少年は思わず吹き出してしまう。
家政婦は眉を釣りあげて頬を膨らませるが、すぐに相好を崩す。
二人は声をあげて笑った。
そして家政婦は、猫の身体をつかんで足元におろすと立ちあがり、照れ臭そうに言った。
「私も坊っちゃんの事を言えませんね」
少年は不安が少し和らいだらしい。悪戯っぽい表情で家政婦の顔を見あげながら軽口を叩く。
「怖がりだと、地下室の女が来るよ」
その生意気な言葉に家政婦はクスリと笑い、おどけた表情で敬礼をする。
「了解。気をつけます。坊っちゃん」
「うん。気をつけて」
「それじゃあ、おやすみなさい」
「おやすみ」
家政婦は、明かりを常夜灯に落とすと子供部屋をあとにした。
……その日の未明だった。
地下室への階段の下で事切れている家政婦の姿を、帰宅した少年の両親が発見する。
少年は警察や両親に「地下室の女がやった」と泣きながら訴えたが、誰もまともに取り合おうとはしなかった。
068: 名無しさんきっと来る 2019/4/25(木)0:12 ID:※※※※※※※※
(URL)
069: 名無しさんきっと来る 2019/4/25(木)0:34 ID:※※※※※※※※
何これ?
070: 名無しさんきっと来る 2019/4/25(木)0:49 ID:※※※※※※※※
未検出って出るんだけど
071: 名無しさんきっと来る 2019/4/25(木)1:04 ID:※※※※※※※※
404
072: 名無しさんきっと来る 2019/4/25(木)1:15 ID:※※※※※※※※
このURLを開いた人は気をつけて。
奴は怖がりのところにやって来る。
073: 名無しさんきっと来る 2019/4/25(木)1:19 ID:※※※※※※※※
>>72
奴?
074: 名無しさんきっと来る 2019/4/25(木)1:31 ID:※※※※※※※※
地下室の女
そこは彼女が大学に通うために借りている、東京都内のアパートの一室だった。
「地下室の……女……?」
その不気味な言葉を呟き、マウスを握った右手をゆっくりと動かす。
画面上の矢印が、掲示板に貼られたURLに合わさる。
“奴は怖がりのところにやって来る”
その文面が再び目に入り、清田は逡巡する。
壁掛け時計の秒針が、一秒……二秒と音もなく振れる。
文字盤の中では、有名なテーマパークの鼠のキャラクターが陽気な微笑みを浮かべていた。これから彼女の身に起こる事など知るよしもないといった様子で……。
そのままたっぷりと迷い、けっきょく、好奇心が勝った。
清田はマグカップを再び机の上に置いてから、右手の人差し指に力を込めた。
それと同時に時計の針が振れ、一時三十四分を指す。
すると……。
「何これ……?」
画面を見つめる。
清田の表情に、そこはかとない恐怖の色が差した。
その瞬間、高らかにインターフォンの音が鳴り響く。
「きゃっ……」
清田は背筋を震わせて、ほんのわずかに尻を椅子から浮かせた。
振り向いて背後にある寝室の入り口のドアを見た。すると、再びインターフォンが鳴る。
「何なのよ。もう……こんな時間に」
清田は立ちあがり、寝室を出ると玄関へと向かった。
この日以降、清田冬美の姿を見た者はいない。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます