【第5章】時の悪戯、そして決意する
第1話
「うおっ! なんだ? 何が起きた?」
周りを確認するが、先ほどと変わらず教室だ。
でも、この教室、空き教室だったはずなのに、妙に人がいた形跡が……
空き教室だったから、それぞれの机には何もないはずだ。
しかし、見てみると各机には教科書が入っているものもあれば、体操着らしきものがフックに掛かっているものもある。
それに、窓からのこの景色、どこか見覚えが……?
「やっぱり、俺の教室だ。前橋さん、さっきまで高崎さんと空き教室に————」
タッタッタッタッタッ!
ガタン!
とりあえず前橋さんに確認しようとするも、勢いよく開く扉の音に遮られる。
そして、扉の向こうには、肩で息をして余裕の無さそうな顔をしている美少女。
「あ、高崎さん! さっきはその————」
「ハァ、ハァ、ハァ……もしかして……その成績表……」
「えっ、成績表?」
手元を確認すると誰かの成績表。
名前を見てみるとそこには「高崎可憐」と綺麗な字で書かれている。
なんで持っているんだ?
「見ちゃった?」
「えっと、見たって……これを?」
「やっぱり見ちゃったんだぁぁぁ! わぁ~~! めちゃくちゃ恥ずかしいよ~~!」
顔を手で覆いながらしゃがみこんで叫ぶ高崎さん。
まるで2週間前とまったく同じように。
そのあとの俺は、適当な相槌しか打てていなかったと思う。
あのときをなぞるかのように、高崎さんの悩み、将来の夢を語ってくれて、来週から勉強を教えることになった。
来週って……もう試験は終わったはずだろ……?
「じゃあ、太田君、来週からよろしくお願いします! 場所はいいところがあるからあとで教えるね! ばいば~い♪」
ついさっきまで、恥ずかしそうにしながらも、意を決して告白をしてくれた高崎さん。
しかし、今話した高崎さんは、そんなことを忘れてしまったかのように話を続け、そのまま
教室から去ってしまった。
……もう、認めざるを得ないだろう。
意を決して、黒板を確認する。
やっぱり、俺が書いたやつだ……
そこには【7月1日(木)】の記載。
あの日に……高崎さんに勉強を教えることになったあの日に……
《2週間前》に戻ってしまったんだ。
「前橋さん、これどうなってんだよ? ……ん?」
ひとまず現状を確認するために、後ろにいる前橋さんに声を掛ける。
「…………? どうなってるって何のことかしら?」
一瞬、遠くを見ていたかのように唖然としていたが、すぐさまいつもの無表情に戻る。
「何のことって、今起こってることだよ!」
「興奮するのも分かるわ。だって、学校でも随一の美少女の高崎さんに勉強を教えることになったのだから」
「えっ、前橋さんは気付いていないのか?」
「だから何がよ。ほんと太田君にはついていけないわ。まるで悪い夢を見た後みたいな顔して」
前橋さんはそう吐き捨て、教室の外を眺める。
この様子からすると、前橋さんは気付いていないみたいだ。
でも、絶対におかしいことは確かだ。
あの出来事が全部夢ながずない。
高崎さんに勉強を教えて、試験に臨んで、それなりの成果が出て、感謝をしてくれた。
こんな俺を好きと言ってくれたんだ……
しかし、そんな俺を間違っていないと認めてくれるものは何もなかった。
あれが現実だと証明してくれるものは何もなかった。
とりあえず家に帰ってみたものの、あの日を繰り返すかのように母親から抱き着かれ、同じような会話を繰り返す。
誰も今を疑問に思っている人なんていなかった。
あれは本当に夢なのか?
素敵な恋を渇望するあまりに見てしまった俺の妄想だったのか?
なぁ、教えてくれよ……
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます