第2話


 その日の夜。自宅にて。


 リビングにあるソファーで上を向いて一人呆ける俺。

 知っている天井だ。


 やるべきことは、あと勉強だけなのだが、今日の出来事を思い返すと、ずっとこの調子でぼんやりしてしまう。


 まさか俺が高崎さんに勉強を教えることになるなんてなぁ。

 しかも完璧超人に見えて、彼女なりの悩みも抱えていた。

 俺には俺の悩みがあって、高崎さんにも苦手なことがある。


 なんか親近感湧くなぁ。

 本人にしてみれば失礼かもしれないが。


 前橋さんも「これでまた一歩前進ね」と言ってくれた。

 これから先どうなるか分からないけど、みんなから一目置かれているあの高崎さんと話す機会が増えるんだ。

 女の子と話すことが苦手な俺と、早くおさらばできるようにしなければ!


 すると急に、柔らかく弾力のある感触と同時に、妙に馴染みのあるシャンプーの香りが襲ってきた。


「直く~~ん」

「なんだい母さん」


 どこかお疲れ気味の母さん。

 後ろから頭をホールドしてきた。

 ……暑苦しい。


「直くんパワーをチャージ中なのです」

「仕事、あまり順調じゃない感じ?」

「ん~、恋愛小説って書いてるときは楽しいんだけどねぇ。でも書き始めるまでが大変なの」

「そっか。ありがとう。頑張ってくれて」

「うんうん。好きでやってることだから。でもそうやって慰めてくる直くんが大好き~!」


 ますます息苦しくなるが、いつも咲良と俺のために頑張ってくれているんだから、これくらい安いもんだ。

 恋愛小説かぁ。

 今の俺の状況は、まさに恋愛小説みたいにドラマが生まれる可能性があるのかもしれない。


 そうなると、高崎さんが待ち望んでいた運命の相手?

 いや、ないないない。


 あくまで高崎さんは一時的に勉強を教えるだけの仲なんだ。

 きっと期末試験が終わったら、いつも通りの日常に戻ってしまうに決まっている。


 とはいえ、前橋さんも言ってくれたけど、着実に一歩前進してるんだ。

 そのあとのことなんてそのとき考えればいいさ。


 直くんパワーをチャージし終えたらしい母さんを見送り、俺は勉強机に向かうことにした。

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