第4話
■■■■■■■■■■■■■■■
「おいケイ、聞いたか?」
「何を?」
「ゴリ林だよ。あいつ、夜中に自慢の愛車をボコボコにされたらしいぜ」
「マジか。あいつ正直うざかったし、なんかスカッとするな」
いつもと変わらない日常。
いつもと変わらない教室。
いつもと変わらないメンツ。
周りは大学入試のため、ピリピリとした重たい空気。
でも、いつもつるむコイツらは、そんな空気に逆らい、自由気ままに生きている。
もう勉強なんてかったるいことはしたくない。
勉強なんてしなくても、そのままエスカレーター式で附属の大学に行けるし。
だから自然とコイツらといることが増えた。
でも、俺はコイツらとは全く違う人種の人間だ。
そもそも格が違う。
目の前の二人は、必死で悪ぶっているようにしか見えない。
群れてなきゃ何もできない無能どもだ。
だから、俺の後を付いて、俺の威厳を示す道具になればそれでいい。
そうすれば、他の低能どもも近づいては来ない。
近づきたいものには自分から食らいつき、すべて自分のものしてきた。
親がそこそこ金を持っているおかげで、何でも金で解決してきた。
おまけに俺は見た目もいい。
だから女にだって苦労したことがない。
気に入った女なら、最初は抵抗されても必ず自分のものした。
思う通りにさせてきた。
でも、あいつだけは他のクズどもとは違ったんだ。
————朱宮結葉。
あいつは、今までの女とは一味も二味も違っていた。
他を寄せ付けない圧倒的オーラ。
まさに俺にふさわしい。
そんな俺たちを邪魔する奴がいた。
影が薄すぎて、名前はもう思い出せねぇが、朱宮の周りをうろちょろして目障りだったことだけは覚えてる。
からかってやったこともあった。
あのときは、結局思い通りにならなかったが。
……思い出したらなんかムカついてきた。
そんなことを思っていると、さっきから煩わしい声が聞こえていたことに気付く。
「……ケイ?」
「あ? なんだよ」
「いや、飼い犬が石か何かで殴り殺された事件が————」
「それ、俺に何か関係あんの?」
「別にそういう訳じゃ……」
「なんか今日は気分が乗らねぇから、適当に時間潰してるわ」
最初に配られた教科書類が全部詰め込まれた自分の席を立ち、そのまま教室から出ていく。
「おい! 授業は出なくていいのか?」
「……」
何か言われた気がしたが、とりあえず無視。
別に不良になりたいわけじゃない。
ただ面倒だから自分のやりたいようにするだけ。
こんなとき、屋上で昼寝でもできたら最高だ。
生憎、一般生徒は立ち入り禁止なので、行けたとしても屋上に繋がる入り口までだが。
まぁ、人は来ないし、ひとまず放課後までそこで時間を潰すか。
目的地に到着し、腕を枕代わりに仰向けで眠る姿勢になる。
ムカついたときは寝るに限る。
俺は……物には当たらない。
……そこらのクズとは……違う……
……
…
「ん……」
何やら眩しいものを感じて目を開く。
視界には、赤い光が扉の窓越しから差してきていた。
「……けっこう眠っちまったみたいだな」
大きく伸びをして再び窓の外を見る。
今は何時だか分からないが、夕日が沈みかけているところだった。
少し寝すぎたためか、身体がだるい。
あいつらも帰っちまったかな。
いつもつるんでる二人とは、学校終わりにゲーセンに行ったり、他校の女生徒にちょっかいを出したりして遊ぶことが多かった。
でも、すでに下校時刻から大分時間が経ってしまったようで、学校の中からは声が聞こえない。
外から部活動で無駄に汗を流してる連中と、そこまで上手くない楽器の音だけがかすかに聞こえてくるだけ。
「ふわぁ~~」
あくびをしながら階段を降りる。
そのとき、
「……ん?」
一瞬、誰かに見られた気がして辺りを見渡す。
当然誰もいない。
まだ寝ぼけてしまってるのかもしれない。
でもまだ眠れそうだ。
家に帰ったら飯食って、さっさと寝てしまおう。
この学校は4階建てで、3年の教室は4階にある。
すぐに自分の教室に到着し、ほとんど何も入っていないスクールバッグを手に取る。
今日もつまらない一日だった。
2階にある昇降口へ行くために再び階段を降りる。
すると、
「え……?」
急に背中が押された感じがした。
足元を見てみると、階段を踏み外している……?
それどころか、身体が前のめりの状態で階段の真下に目がけて落ちている。
〈背中が押された感じ〉がしたんじゃない。
事実として、何者かに〈背中を押された〉んだ。
態勢を整えようにも、空中姿勢のまま身体をコントロールすることは不可能。
すると、押された反動で身体がよじれ、階段の上の方を向く姿勢に変わる。
死ぬときは走馬灯が見えるという。
たしかに、なんか世界がゆっくりになっている。
端から見たら一瞬の出来事。
でも、今の俺にはその何倍もの時間に感じる。
あぁ、本当につまんねぇ人生だった。
そんなつまんねぇ人生の俺は、いったいどんな走馬灯が見られるんだ?
しかし、見たのは走馬灯なんかじゃなかった。
階段の上にそっと佇む影。
あれは……
「嘘……だろ……?」
世界は途端に真っ黒になった。
■■■■■■■■■■■■■■■
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます