第3話


「起きて! 新斗!」

「……ん? どうした?」


 目覚ましが鳴るまでまだ時間があったが、杏沙の戸惑いと不安を訴える声で起こされる。なにやら不穏な空気だ。


「大変なの……! おばあちゃんが……いなくなっちゃったの? おばあちゃんだけじゃない。一葉ちゃんのご両親もいなくなっちゃってみたいで……」

「どういうことだよ⁉」

「私にも何がなんだか……」

「杏沙さん! あっ、新斗くんも起きましたか! この近辺を見てきましたが、やはり人が見当たらないです。今ダピルさんが街に行って————」

「大変ダピ! この島全体を一周してきたけど、やっぱり人っ子一人いなくなってるピ!」

「なんだって⁉」


 ということは、俺たち以外の人は全員、この島から姿を消したってことか?

 誰がそんなことを……はっ⁉


「もしかして、これが魔法少女が言っていた……?」


 ピコン! ピコン! ピコン!


「強大な悪魔の力を感知ダピ! ……ん? 1、3、10,15……まだまだ数が増えてるピ!」

「そんな……⁉ 今までこんなこと……」


 杏沙が戸惑いの声を上げる。


「とにかく、ここにいても仕方ない。今すぐ幼女戦隊出動だ!」


 そして、俺たちは現場である島の中心地へ来た。やはりここに来るまでの道中でも人っ子一人見当たらなかった。もしかしてみんな……。いいや! まだ事実と決まったわけじゃない。つまんないことを考えるのはよそう!

 でも、その考えを悪い意味で後押ししてしまう状況が目の前に広がっていた。


「悪魔が……こんなに……?」


 目の前には、少なくとも30体以上はいるんじゃないかと思えるほど悪魔たちが勢揃いの状況だった。

 普通のゴルラだったらたいしたことないのに、この量は……。


「こんなにたくさんの悪魔を一度に相手しないといけないなんて……」


 一葉の足が震えている。


「新斗、この状況でも前を向いていられるつもり?」


 さすがの杏沙も気圧されている。


「まぁ、目を背けたくなる状況ということは確かだな……」


 今までの悪魔との戦いは、基本的に一体ずつだった。今はどこぞのオールスターで感謝する番組並みに役者が揃っている……嫌な意味で。

 すると、悪魔の群れが左右に別れ、道を開けていく。そこから現れたのは、


「よく来てくれたね。幼女戦隊のみんな♪」

「魔法少女! 昨日言ってたことはこれのことだったのか⁉」

「うん♪ 楽しいね♪」

「ふざけるな! 島のみんなはどこだ?」

「心配しなくても大丈夫だよ。殺してないないから。殺したらスンゴイパワーがもらえなくなっちゃうしね」


 魔法少女の手の平には、キューブ状の何かが浮かんでいた。


「もしかして、みんなをそのキューブの中に閉じ込めたってことか?」

「アラトは察しがいいね。さすがはお兄ちゃん♪」

「いいからそれを返せ!」

「返すわけないじゃん。あたし、やっと分かったんだ♪ もっともっと強くなって楽しく遊べるように、この島に眠るスンゴイパワーを探し求めてたんだけど、スンゴイパワーは魔石でも武器でも食べ物でもなかったの。少ないけど、この島の人みんながスンゴイパワーを持っていた。だからとりあえず、お前たち三人だけはそのままにして、他の人たちみんなをここに封じ込めちゃったの♪」

「そういうことだったんダピ! この島全体から力を感じてはいたけど、その原因は分からなかったピ。まさか、この島の人みんながパワーを持っていたなんて……」


 俺たちも驚きだが、ダピルもこの真実には気付けていなかったようだ。

 それにしても許せねぇ!


「なんでお前の力のために、この島の人々が犠牲にならなきゃいけないんだ!」

「あたしが楽しいから? ふふっ♪ でもお楽しみはこれからだよね? ここには生き残ってる悪魔を全部呼び寄せちゃってるの。あたしを倒す前にまずはこいつらを倒すことだね。じゃあ待ってるよ~。あまりに遅すぎると先にこの世界を滅ぼしちゃうから」

「待て!」


 魔法少女は、悪魔の群れの後部へと姿を消す。同時に悪魔どもが目の前に立ちふさがる。


「このときを待っていたぞ、幼女戦隊! 俺様の名はハーゲンティ!」

「俺はシャックス!」

「私はフォカロル!」

「ワテはマルコシアス!」

「ブルドッグ!」

「マルチーズ!」

「チワワ!」

「タンコ!」

「ミンコ!」

「チ〇コ!」

「ラウム!」

「ロノウェ!」

「ちょぅと待て! お前ら一人ずつ自己紹介するつもりか! それに犬の犬種を言っただけのやつがいるだろう⁉ それは本当に悪魔の名前か? それに下ネタ! 放送コード引っかかりそうなやつ言っちゃダメだろ! 絶対ダメ!」

「ちょっと新斗、あんた何に対してキレてるのよ……」

「チワワは可愛いです!」


 こんな調子だけど、気を取り直して戦わなきゃ。


「でも……俺たち三人だけでこいつらを相手しなきゃいけないのか……」

「いくら強くなってるとはいえ、骨が折れそうね」

「でも、やるしかないです……」


 先の見えない戦いに身を投じようとした————そのとき、一筋の光が差した。


「新斗」

「ん? ……おお! 来てくれたのか⁉」


 そこには、艶やかな銀髪ヘアーを一本結びでまとめた碧眼娘・ソニアがいた。


「新斗がピンチな気がしたから。それに魔法少女の気配も。ラーメン一生食べ放題……じゅるり」

「お前はやっぱりブレねぇな。でも、これでこっちの役者も揃った! みんな準備はいいか?」

「うん!」「はい!」「無論」



「「「「YOJOパワー・コンプレッション‼」」」」

「小さき炎で悪を焼滅! 赤のヒーロー! 幼女レッド!」

「小さき水で悪を水滅! 青のヒーロー! 幼女ブルー!」

「小さき雷で悪を雷滅! 黄色のヒーロー! 幼女イエロー!」

「小さき氷で悪を氷滅! 銀のヒーロー! 幼女シルバー!」

「「「「キュートな見た目でグレートパワー! 幼女戦隊リトルガールズ‼‼‼」」」」



「ソニアもばっちり決まったな! ってか、見たことなかったはずだけど、なんでこの決めゼリフ知ってるんだ?」

「ダピルからこっそり聞いた」

「ナイスダピル! じゃあ気を取り直して、幼女戦隊リトルガールズ! 世界の平和は俺たちが守るぞ!」

 

 こうして、総勢30体以上の悪魔軍団 VS 幼女戦隊4名の戦いが始まった。


 数では圧倒的に劣っていたが、ソニアが加わったことでそのハンデを十分に補うことができた。 

 ソニアの氷属性の攻撃は広範囲でも一対一でも使えるオールラウンド型。

 それに杏沙の援護と一葉と俺の近接攻撃の連携で、あっとういう間に残り10体まで悪魔を掃討することができた。


 しかし、ここにきて魔法少女が動き出す。


「遅い。遅すぎるよ。こんな悪魔たちにどれだけ時間を使ってるの? もうおやつの時間だよ? だから……いただきます♪」


 手に持っていたキューブが黒く光りだし、その光が魔法少女の身体へと取り込まれていく。


「すごいよこれ! 身体がぞくぞくする……! 子供の身体なのに……! いけない感じが胸の奥からあふれてくる……!」

「ダピル、あれはどういう状況なんだ……?」

「きっとキューブに集めたスンゴイパワーを体内に取り込んでいるんダピ」

「島のみんなは無事なのか⁉」

「分からないピ。ただ、閉じ込められた人の生命活動が終了してしまうとパワーも減ってしまうはず。だから下手なことはしないはずダピ」

「それを信じるしかないか……」

「やっぱりまだまだ熟成させてる途中だったから、パワーが足りないな……そうだっ!」


 すると魔法少女が俺たち……いや、残っている悪魔たちに手をかざし始めた。

 そして、どんどん悪魔たちを自分の体内に吸い込んでいく。


「な、なにをやってんだ⁉」


 一瞬にして残った悪魔全員が魔法少女に取り込まれてしまった。


「ふぅ……ごちそうさま。……おお! これはすごい! 力が……みなぎって……!」


 魔法少女がうずくまる。身体の中に取り込んだパワーを必死に抑え込んでいるのか?


「まずいピ! 魔法少女の力がどんどん上昇していってるピ! でもあんな力、あの小さい身体で制御しきれるわけないピ!」


 確かに、今までにないほどの圧倒的なプレッシャー。

 気を抜くとこのまま立っていられなくなりそうだ。

 当然、このパワーを内に宿す魔法少女の身体にも相当な負担がかかるはず。

 いったいどうやって戦おうっていうんだ?

 ……ん? 魔法少女の様子が……


「冗談……だろ?」


 俺とダピルの心配は無用に終わった。

 だって魔法少女の身体がどんどん膨れ上がっていくんだから。



「ゴォオオオオオオオオオオオオオオオオオオオ‼」



 ものすごい雄たけびとともに、制御しきれないと思っていた力が綺麗に魔法少女に収まったのを感じた。

 いや……あれはもう魔法少女じゃない……


「なんだ、この巨大モンスターはぁああああああ⁉」


 大きな角。

 地球ごと丸ごと嚙み潰せるんじゃないかと思えるほどの鋭い牙。

 そしてすべてを振り払えてしまえそうな、屈強でしなやかな尻尾。

 全長は300mくらいあるんじゃないか?


「あんなのどうやって倒せっていうのよ⁉」

「大きすぎます……」

「ラーメン一生分……」


 さすがのこの状況に、みんなの戦意が下がっていく。


「なんで見た目は可愛い女の子が、あんなに大きな怪物になっちゃうのよ……」

「まぁ小さい女の子を寄ってたかって攻撃するのは絵面的にもコンプラ的にもアウトだもんな」

「そういう問題なの⁉」


 冗談はさておき、杏沙の言う通り、こんな相手、どうやって戦えばいいんだ?

 こんな状況、いくら常に前向きの俺でも……

 そのとき、大きな尻尾が俺たちを襲う。


 ズズズズズズズ、ドゴンッ!



「「「「ぐはっ」」」」



「よそ見しないでよ。いつまで経っても攻撃してこなから、こっちからしちゃったじゃん」


 まずい、このままだとやつを倒したとしても、この島が破壊されたらみんなの帰る場所が……。


「みんな! ひるんじゃだめだ! ヒーローである俺たちが諦めたら、本当にこの世界が終わる。だから立ち向かうぞ!」

「やるしかないわね」「頑張ります……!」「新斗がそういうなら」


 そして、一斉に目の前の巨大モンスターに立ち向かう。

 でもやはり、俺たちの攻撃ではびくともせず、返り討ちにあうだけ。


「みんな大丈夫か⁉」


 それぞれが深手を負い、限界も近づいてきてる。

 俺のYOJO・スーパーノヴァをもってしても、まるで子どもの遊びみたいに軽くかわされるだけだった。


 相手はでかい……。

 普通の攻撃じゃ太刀打ち不可能……じゃあどうすれば?


 子どもの頃にテレビで見た戦隊モノでもこんなシチュエーションなかったっけ?


 でかい……でかい相手……でかい武器……でかい兵器……ん?

 でかい兵器?


「そうだ、分かったぞ! あいつを倒す方法が!」

「新斗、それは本当なの⁉」

「ああ! なぁダピル!」

「なんダピ?」

「合体だ! 巨大合体ロボットだよ! 戦隊モノのお約束だろ? どこかの秘密基地にしまってるんじゃないのか?」

「あるわけないピ」


 ゴツンッ!


 杏沙のゲンコツが俺の脳天に直撃。


「痛いな! 何すんだよ⁉」

「あんたがふざけるからでしょ! なんでいつも空気を読めないの? このニート! 変態! 汚染物質!」

「いや、空気は読めなくても、汚しはしないからね⁉」

「待ってほしいピ!」


 ダピルの声により喧嘩を中断。

 さすがに怒っちゃったか?

 しかし、ダピルの反応はその逆だった。


「そうダピ! 合体ダピ! ロボットはないけど、君たちが合体すればいいんダピ」

「おいダピル、さすがに俺でもこんな状況でそんな卑猥なことは言わねぇぜ?」

「ダピル最低」

「最低です……!」

「淫乱AI」

「ちょっと待つんダピ! ダピルが言いたいのはそういう意味じゃないピ」

「じゃあどういう意味よ?」

「今こそみんなの心を文字通り一つにするんダピ! 君たちのコンビネーションと信頼関係はこれ以上ないくらい強固なものになってるピ。ソニアは途中からだけど、新斗に対する思いと、顔には出さないけど仲間を大切に思う気持ちはみんなに負けてないピ。だから、みんなで心を一つにすることにより、より強大な力を発揮できるピ」

「具体的にはどうすればいいんだよ」

「前向きな気持ちダピ」


 ダピルらしくない感情論に寄った答え。

 でも、俺には理論とかそんなもんより、こっちの方が性に合ってるぜ!


「分かった! 気持ちだな!」

「ちょっと新斗、本当に大丈夫なの……?」


 杏沙を筆頭にみんなの顔には不安の色が浮かぶ。でも、


「ああ! だからみんなの力を俺に貸してくれねぇか? 少しでも可能性があるならそれにかけてみる。それが俺の正義だから!」


 みんながお互いの顔をみて、最後に俺の顔を見る。


「ったく、あんたの正義の定義はいつも変わるのよね」

「でも、それにいつも救われてきました」

「身も心も新斗にあげる」



 みんなの心を……一つに!



「いくぞみんな! YOJOパワー・コンバージェンス!」

「「「コンバージェンス!」」」



 その掛け声とともに、みんなの身体が一斉に光る。

 杏沙は青、一葉は黄、ソニアは銀、そして俺は赤。

 その俺の赤に、みんなの色が重なっていき……



「合体成功! YOJO・スーパーノヴァ・マシマシギガマックス‼」」



 スーパーノヴァのときよりも、心なしかさらに小さい身体になってる気がする。

 でもパワーは桁違いどころか、もう地球を片手で割れるんじゃないかってくらい強くなってるんじゃね?


 すると、どこからかみんなの声が聞こえる。


「ネーミングセンス、ダサっ」

「新斗くんらしいです……」

「マシマシ……」


 目を閉じると、そこにはみんなが……。……ん? 本当にいる⁉


「キャー! なんであたしたち裸なの⁉」

「もしかして、ここは新斗くんの心の中なんですか?」

「新斗と……一つに」


 俺の中からみんなの声が聞こえる。

 ……なんて心強いんだ!


「みんなのあられもない姿を堪能したいところだが、残念ながら俺だけ外だ。だからみんな!そこで俺の勇士を見守っててくれ!」


 そうして、巨大モンスターの目の前へと飛んでいく。

 あれ? いつの間に飛べるようになったんだ?

 まぁこの際、これは考えないでおこう。

 それが俺の正義。


「なんなんだその姿は⁉ さらにちっちゃくなってるのにすごい力だ」

「お前こそ、無駄に大きくなってるけどな」

「ふん。無駄かどうかはこの一撃で分からせてあげる!」


 巨大モンスターの口が大きく開かられる。そして、どんどんパワーが口の中に集中。


「ちょっと新斗! あんなの食らったら、いくら強くなったところでひとたまりもないんじゃ……?」

「これは逃げたほうが安全じゃないですか?」

「戦略的退避」


 みんなが心の中で心配してくれてる。でも!


「みんな心配してくれてありがとう! でも、ここであの攻撃を避けたらこの島どころかこの世界が半壊するかもしれねぇ。だから、俺たちの全力をあいつにぶつけて、この戦いを終わらせるぞ!」

「……もう、わかったわよ!」

「はい!」

「一食入魂」


 両手をモンスターめがけて突き出す。


 この一発は俺たち幼女戦隊の全正義を注ぎこんだ魂の一発。


「いくぞぉおおおおおおお!」


「「「「おおおおおおおおおおおおおおお‼‼‼‼」」」」」



 みんなのYOJOパワーを収束・圧縮。



「これが俺たちの全力正義だぁああああああああああああああ‼‼‼‼‼‼‼」



 俺たちの正義を全力で撃ち放つ。

 対する巨大モンスターもその膨大過ぎる力の塊を放射。



 まるで超新星爆発が起きたかのような激しい爆音とまばゆい光。

 2つの大きな力がぶつかり合い、そして片方の力が相手をのみ込んだ。

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