第4話
タロウから語られる言葉一つ一つには、彼の悲痛な思いがこれでもかと詰め込まれていた。
だが、一つだけ言えることがある。
「ガチャガチャうるさいんだよ」
「なんだと⁉ お前に何が分かるっていうんだよ!」
「分かるさ。俺だって、毎朝毎朝変なことを言わされ、社員を使い捨てのゴミクズとしか思っていないようなブラック企業に入社してドロップアウトした身だ」
相手に対してしっかり向き合い、言葉を続ける。
「……でもな? 人生にリセマラなんてないんだぜ?」
「なんだよ、それ。そんなことは分かってる! だから俺は人間を捨てて、世界を滅ぼしてやり直すんだろうが!」
「お前のはリセットなんて大げさなものじゃねぇ。単なる腹いせだ」
立ち上がろうとするが、うまく足に力が入らない。やっぱり立ち上がるのは厳しそうだ……。
「俺だって、こんな人生嫌だった。22にもなって未だに童貞だし、ブラック企業を辞めたはいいけど、ずっとニートのままだし、家族からは家を追い出されるし、人生詰んだと思った。だから俺は現実から逃げたんだ。情けなくな。でも、逃げることは決して後ろを振り返ることでも、後ろめたいものでもなんでもない。なんでか分かるか? 俺は常に前を向いて逃げてたからだ。バカの一つ覚えみたいに、俺には眠った才能があって、いつかその時が来たら覚醒するんだとばかり考えてた。それを心のよりどころにして自分の力で前に突き進み続けた。そうしたらいつの間にか、仲間ができた。まぁ、こんなちんちくりんな姿になってるけどな」
「うるさい! そんな幸福自慢なんて聞きたくないんだよ!」
「そう……俺の人生は結果的に幸せなんだと思う。それは、自分だけは諦めずに前を向き続けたから。逃げても下だけは向かなかったから。人っていうのは、自分から下を向くまで負けじゃない。人生の負けは自分で決めるものなんだ」
「だまれぇえええええええ‼」
「ごふっ!」
怒りのボディブローをくらい、再び突き飛ばされる。
「そんなの綺麗ごとだ! 人生は綺麗ごとだけで片付かないんだよ! だから、お前みたいなやつの気持ちを僕が理解することも、僕の気持ちをお前が理解することもできるわけがない!」
「分かってるよ、んなことは。俺はお前じゃないんだから、一生分かり合うことなんてできねぇ。でもな、一つ気付いたことがある。お前は確かに、傍から見たら人生ガチャの失敗だったのかもしれない。けど、そんな誰にも向けられない絶望や憤りでも、お前はちゃんとぶつかって受け止めてくれる人が欲しかっただけだったんだ。その証拠に、最初に見せた何でも灰にできる能力を俺に対して使ってない。お前は俺に合わせて拳でぶつかってきた。それが何よりの証拠だ」
「違う……」
自分の心の中を覗かれたみたいに感じたのか、タロウは恐れるように後ずさる。
「俺は嬉しいよ。今もこうやって、お前が自分の心のわだかまりを吐き捨ててくれて。中にはそれすらできずに自滅してしまう人だっている。人間だった頃のお前のように」
「違う……俺はそんなんじゃない……そんなはず……ないんだ……」
「いいや、違わない」
「……くっ……頭が……」
悪魔と人間の心の狭間にいるのか、ものすごく苦しそうにするタロウ。
そして、苦しみながらもゆっくり言葉を紡いでいく。
「わかってるさ……。全部自分が悪いってことは……。結局は他人のせいにして、自分から動こうとしなかっただけだってことは……。でも、もう遅いんだよ。こんなことはもう無駄だってことは心では分かってるのに……。もう……止まれないんだ。魔法少女様に心を売ってしまったから、憎しみや妬みのような負の感情があふれ出て止まらないんだ……。だから……お前を倒して、こんな人間の心なんて忘れて、ようやく僕は解放される……!」
「いいぜ。お前のその魂。俺の正義がしっかり受け止めてやるよ!」
おい、俺の正義の心。
お前にもう少しやる気があるなら、力を貸してくれねぇか?
お前の正義はそんなものなのか? あん?
なに、俺の身体は心配すんな。俺が運動能力高いのは知ってるだろ……?
精神を研ぎ澄ませ、損傷した身体の部分の意識を遮断。
動く部分だけをフル稼働させ、立ち上がる。
……なんて情けない姿だ。
まっすぐ立ててないじゃん。
でも、それでいいんだ。ヒーローは恰好じゃない。
心だ!
「モードチェンジ! YOJO・スーパーノヴァアアアア!」
「新斗! もうやめて! これ以上無理したら……!」
ったく、杏沙は本当に世話焼きのオカンだな。
オカンなら黙って息子の成長を見守るもんだ。
これが本当の最後の力。
この戦いが終わったら、きっと意識を失うだろう。
そしたらそのまま目を覚まさないかもしれない。
だけど、
「いくぞぉおおおおおおおおおおお‼」
「お前を倒して世界を壊す‼‼‼‼‼」
男と男の意地がぶつかり合う。
そして、大きな衝撃音とともに辺りを見えなくするほどの爆煙が立ち上った。
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