第4話
それから数日後。
今日は単純に息抜きということで、三人で島の夏祭りに行くことに。
そして、俺だけ先に行っててほしいとのことだったので、祭り会場の近くにある神社で待っている。
すると、
「ごめん、お待たせ~」
「お待たせしてしまってすみません……!」
二人がやって来た。
ここはイケてる男風に切り返しをしないと。
「全然待ってないよ。俺も今着たところだぜッ♪ キラッ」
「あー、はいはい」
「その流し方ひどくない⁉ というか、その恰好……」
「あーこれ? おばあちゃんに頼んで二人とも着せてもらったんだ~♪ 似合う?」
杏沙と一葉が着ているのは夏祭りの定番衣装・浴衣。
杏沙は青色の浴衣で、綺麗な花形の髪飾り。
こういう格好も様になっている。
対する一葉は、黄色の浴衣で、長い髪をお団子ヘアーにしてまとめ上げてる。
うん、エッティだ。これには思わず、
「ぐへへへっ~」
「新斗……、アンタさらにひどい顔になってるわよ」
「変なこと考えてますね。……新斗くんのバカ」
「ひどい顔でもないし、変なことも考えてないんだからね!」
「なにその反応。……というか、一葉ちゃんいつの間にこいつを下の名前で呼ぶようになったの?」
「それは……その……えへへっ」
こうして、いつもの三人らしく賑やかな感じでお祭りを楽しんだ。その途中、
「きゃっ!」
「おっと」
急に倒れ込む杏沙を俺が瞬時に支える。
「大丈夫か?」
「うん……ありがと……」
「おう」
「あの……いつまで触ってるつもり?」
「あと少しだけ」
「変態!」
バチンッ!
もう少し、浴衣越しの楽園を楽しみたいと思っていたが、やはりダメだった。
陽キャがよく使っていると噂の『夏祭りミラクルドリーム(夏祭り特有の淫らな押せ押せムード)』は効果がなかったようだ。
それから各々見たいものを見たり、食べたいものを食べたりすることになった。
一葉は今、型抜きに夢中になっている。
杏沙の方は疲れたらしく、ベンチで休んでいた。
「ほれ。プレゼント」
「あ、リンゴ飴」
「リンゴ好きなんでしょ? 一番奥の方に一軒だけ屋台があったのを見つけた。ネクタイのお礼もあるし」
「覚えてたんだ……。まぁネクタイの方が何倍も高いんですけどねっ!」
「それをいうなよ……。もう少しここで休んでるでしょ? ちょっと一葉の様子を見に行ってくるわ」
そう言って一葉のもとへ向かうと、何かを見つめて立ち止まっているところを発見。
その視線の先を見てみると……なるほどな。一葉の方に近づき、
「おっちゃん! このお面一つくださいな!」
「おっ、あんちゃん! 目の付け所がいいね! はい、700万円」
「高いな! って、700円だろ!」
「まいど!」
唖然としたままの一葉にお面を被せる。
「はいよ」
「あの……どうして分かったんですか?」
「物欲しそうに見てたから」
「わぁ~、恥ずかしい……」
「あははっ! 杏沙も待ってるし、そろそろ行こうぜ」
そうして再び三人が集まった。
最初に比べれば、この二人とも自然に話せてる気がする。
この積み重ねが信頼関係に繋がるのかな……。
しみじみとそんなことを考えていた、そのとき————
「悪魔レーダーに反応ダピ! 幼女戦隊出動ダピ!」
楽しいときは一瞬。
だけど、その一瞬の時間を貶める奴は絶対に許さない!
変身して現場に急行。
悪魔はお祭り会場のすぐ近くまで来ていた。
「カメェー‼ ワタシの名前はアミー! 誰もが恐れる絶対防御の亀! 魔法少女様が従えし————」
「このやろう!」
ドカン!
俺のファイヤーパンチを食らわせる。
「カメ⁉ いきなり何をする⁉ 自己紹介前に殴るとかヒーローの風上にも置けない奴だカメ!」
「うっさい! こっちは良い感じに楽しんでたのに、邪魔しやがって!」
悪魔の名前はアミー。
亀の姿をしているが二足歩行で立っている。
あの甲羅も硬そうだ。
でも、そんなの関係ねぇ!
だって、
「俺はこの世界の平和を脅かす奴を倒すだけだぁぁあああああ!」
さっき以上に力を振り絞り、パンチを繰り出す。しかし、
「カメェー‼」
「なに⁉」
バリアー的なものがアミ―を包み込み、俺のパンチを受け止める。
しかも……
「いってぇ! なんだよ、あのバリア、超硬いぞ! てか、なんで甲羅で守らないんだよ」
「これはファッションだカメ」
「飾りかよ!」
そんなやりとりに呆れながら杏沙と一葉がやってくる。
「もう! アンタ一人で突っ走らないでよ」
「でもあのバリア……かなり硬そうです」
それからも三人で攻撃を続けるが、一向にバリアを打ち破れる気がしない。
そして、バリアで攻撃を防いだ瞬間に、口からビーム上の波動を発射し、遠距離から攻撃を仕掛けてくるので、なかなか近づくことができない。
遠距離からの攻撃となると杏沙の出番。
しかし、杏沙は俺たちを水のバリアで守る役割も兼ねているため、攻撃も防御もどっちづかずになり、なかなか優勢に立つことができない。
せめてあのバリアさえ打ち破れれば……。
すると、杏沙がアクアキャノンで攻撃をしていた様子を見て、一葉があることに気付く。
「もしかしたら、あのバリア……攻撃を受け止めてるのではなく、吸収しているのかもです。杏沙さんのアクアキャノンの水が地面に飛び散らずに取り込まれています。しかも、その攻撃を吸収しているとき、バリアの一部がかすかに歪んでいるのが見えました。もしかしたら、そこを攻撃すれば打ち破れるかもしれません!」
「さすが一葉だ! さっそくやってみよう。作戦は……」
攻撃の手順を確認し、アミ―に立ちふさがる。
「どうした幼女戦隊! お前たちの攻撃はその程度か!」
「どの程度なのかはこれから確かめさせてやるよ! 頼む、杏沙!」
「了解! ……アクアキャノン!」
バン! バン! バン!
「それは効かないとなぜ気付かない! その隙にワタシのところまで仲間を近づけさせる気だな! そうはさせない! カメェー‼」
隙をついて一葉がアミ―に近づくが、波動を発射される。しかし、
「アクアバリア!」
杏沙のバリアにより、一葉をガード。そして、もう一度アクアキャノンでアミ―に攻撃。
「だから効かないと何度言ったら————」
「これならどうですか?」
「なんだと⁉」
杏沙の攻撃でバリアに歪みが生じ、そこを逃さず一葉が雷の刃を突き刺す。
バリアの中に刃の先端が入り込み、
「ライトニングブレード!」
シュパッ!
一葉の一振りで、バリアが破られた。しかし、
「バリアを破ったとしても、すぐに復活するカメ!」
破られたバリアがものすごいスピードで修復を始める。
「新斗くーん!」
一葉が大声で合図。
「了解」
存在自体を忘れていたが、召喚されていたゴルラたちを猛スピードでかわしながら、アミ―のもとに一瞬でたどり着き、
「カメッ⁉」
「夏祭りミラクルドリームがいつか訪れてくれますようにパーンチッ‼‼‼‼‼‼」
「な、なんだ、その技はぁあああああああああああ!」
ドカンッ!
今までで一番大きな爆発音を上げながらアミ―が消滅。
「よくやったピ! まさか君たちがここまで連携できるなんて思ってもみなかったピ! YOJOパワーも今までにないくらい跳ね上がってたんダピ!」
「まぁ、俺たちの信頼関係の勝利ってやつだな」
「調子に乗るな。まだアンタに心を許したわけじゃないんだからね!」
「私も……まだ……」
「ちょっと! 二人ともまだ俺のことを信頼してくれてないの……?」
三人ともお互いの顔を見合う。そして思わず、
「「「ぷっ……、あはははっ!」」」
祭りの後。
それは楽しい時間が終わった後の静けさや寂しさを表す言葉。
順番を入れ替えると、後の祭り。
もう取り返しのつかない手遅れな状態を指す。
俺たち三人の祭りの後は、後の祭りとならないように協力し合って、反省して、戦って……その繰り返しなのだから感傷に浸ってる暇なんてないのだ。
ただ、この日を境に俺たちは、幼女戦隊として、仲間として、パートナーとして、より絆を深めたことだけは確かだった。
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