【第5章】強化! チームワーク‼

第1話


 カチ、カチ、カチ、カチ


 ここはいつも通りの銭湯の待合室。


 しかし、聞こえてくるのは、かわいこちゃんのキャッキャムフフな声でも、じいさんがお湯につかって『ぶはぁー!』と思わず漏れ出る疲れと解放感の入り混じった声でもない。


 部屋中に響き渡るのは時計の針の音。随分と年季の入った時計のようで、針の音が少し重々しく聞こえる。


 そんなところで正座させられている一人の青年こと、武能新斗(22歳)、気高き童貞。


 目の前には、ネコのぬいぐるみのような愛らしい見た目に反し、中身は人間の心を全く理解してくれないネコ型AI・ダピル。


 残りの二人の美女(うち一名は狂暴)は、あきれた目で俺たちを見ている。


「新斗、ダピルは悔しいピ!」

「……はい」


 このネコ型AIは、たまに急にスイッチが入って、スポ根漫画にいがちな熱血キャラへと変貌する。


「この前のオラリス戦、杏沙と一葉の連携プレイは素晴らしかった。正直、まだまだだと思っていたけど、さすがのコンビネーションを見せてくれたピ。それに引き換え新斗はなんダピ! 率先してチーム名や決めゼリフを提案してチームをまとめてくれたのはありがたいけど、肝心の戦いになると君が一番足を引っ張ってるピ」

「返す言葉もございません……」


 あれ?

 前回でこの反省ムードは終わったはずなのに、ちょっと引きずりすぎてませんかね?


 そんなことを思う俺なんてかまうことなくダピルは続ける。


「君はもっとできる子ダピ。幼女戦隊の素養に関して言えば、君が一番のポテンシャルを持っているピ。でも、このままいくと勝てるものも勝てないピ。もっと仲間を信頼しないとダメダピ。その点に関して言えば、君たち二人も同じダピ」


 ダピルは俺を責めるだけでなく、杏沙と一葉にまで怒りの矛先を向ける。


「えっ? なんで私たちも悪いみたいになってんの?」

「杏沙……、君は新斗をどう思ってるピ?」

「そ、それは……変態ニート?」

「ひとすぎる‼‼‼」


 そんな俺の反応を無視して、


「一葉は新斗をどう思ってるピ?」

「私ですか……⁉ 武能さんは、その……優しそうな方です?」

「なにその『褒めるところがない人に対してとりあえず答えてみました』的な回答は⁉ しかも『優しそう』って⁉ 仮にも一カ月も一緒にいるよね⁉ なんで初対面の人に対して第一印象を答えるみたいな感じになってるの⁉」


 そんな俺の悲痛の叫びは、またしても無視され、


「やっぱり君たちに足りないのは、お互いに対する信頼関係ダピ! 特に新斗を中心にした信頼関係の構築。これが今の幼女戦隊リトルガールズの最大の課題ダピ」

「信頼関係の構築って、具体的にはどうしろっていうのよ?」


 杏沙が困り顔で尋ねる。


「正直ダピルには人の気持ちは理解できないピ。でも、このすんばらしいAI分析の結果、究極にして、唯一無二の解決策を導き出したピ!」

「「「おおお!」」」

「さすがは腐っても平行世界が生んだ優秀なネコ型AIなだけあるぜ! で、その解決策っていうのはなんだよ?」


「性行為ダピ」


「「「ん⁉⁉⁉⁉⁉」」」


「?……三人ともピンときてないみたいピね。性行為……すなわちセックスダピ。お互いの信頼関係を構築するためには、まずはお互いのことを知ることが必要。そこから身体と心を預けられる関係になることにより、身も心も信頼しきった関係になる。それを効率よく達成できるのがセッ————」

「いやぁああああああああ!」


 バコンッ!


 ものすごい衝撃音とともに、一瞬の間に壁にめり込むダピル。

 この光景を見るのは何回目だろう。


「なに言い出すのよ! バカダピル! 信頼関係を築くにはセッ……セッ……いやぁあああああ!」


 バコン! バコン! バコン!


 自分のお店だというのに、かまわずパンチを繰り広げる。

 あーあ、また何かのポスターで穴を塞がないと。


 そういえば一葉の声が聞こえないな、と思い確認してみると、


「セッ……私……まだ……」


 頭から煙を上げてフリーズしていた。

 たしかに、あんなことを言われたら驚くどころではない。

 俺だって、初めての相手はちゃんと好きな人と……はぁ、俺の卒業式はいつになることやら。


 すると、隣で一方的なデスマッチが終了したようで、


「わ、悪かったピ……、まさかそんな反応をされるなんて思ってもなかったピ」

「当たり前の反応よ! あんたにとっては単なる行為の一種としか判別していないようだけど、人間の行動には必ず気持ちが伴うの! なんで私の初めてをこんな変態ニートなんかに……」


 後半はゴニョゴニョしてて聞き取れなかったが、ダピルは観念したようで、


「分かったピ。それなら、さっきの案よりは手間がかかるかもしれないけど、他にいい方法があるピ」

「今度は大丈夫でしょうね?」

「エッチなのは……ダメ……です」

「大丈夫ダピ。ただし、君たちも真剣にやってほしいピ。これも魔法少女に勝つために必要なことダピ」

「わかったよ。それで、他のいい方法ってのはなんなんだよ」

「信頼関係を築く方法……それは……」


「「「それは……?」」」

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