そんな毎日【六】
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
学校を出て、行くあてもなく街をブラつく。古本屋に寄ったり、中古ゲームを見たり、公園で黄昏てみたり。
そして気づけば夜の7時になり、オレはいつものようにコンビニで夜ごはんを買い求める。
家には帰らない。これから向かうのは――。
「おーい谷原ー、入るぞー」
オレがやって来たのは、藤波学園の男子寮。オレは学校が終われば、いつもここに時間を潰しに来る。
谷原は地方出身なので、今はこの寮で一人暮らしをしているのだ。
『や、矢崎ッ!? ちょ、ちょっと待って!! 今は絶対開けないでッ!!』
扉に向かって声をかけると、部屋の奥から谷原の慌ただしい返事が返ってくる。いったいどうしたんだ?
「……何やってるか知らないが、10秒だけだからなー」
『じゅ、10秒!? 少ないよ!! ってか、ナニもしてな――』
「いーち、じゅーう」
『1と10の間はッッ!?』
うるさい、そんなに待てるか。
「開けるぞー」
『ちょっ、ホントに待って待って待って待って……ッ!!!』
谷原のどこかこの世の終わりだみたいな切羽詰まった声を華麗にスルーしながら、オレはドアノブに手をかけ――。
「いやあ"ぁぁあ"あ"あ"ぁぁッ!!!」
部屋の扉を開けると、夜の寮内に谷原の悲鳴に近い断末魔がこだまするのであった。
「ちょ、まじで扉開けるヤツがいるかよおいぃぃぃ!! 待ってって言ったじゃないかぁぁぁっ!!」
すると、下半身丸出しの谷原が鼻水を垂らしながら物凄い形相で迫ってきた。
って、"下半身丸出し"だとぉっ!?
「ちょ、おまっ!? 下半身丸出しで何……ナニやってんだよ!? こっち来んな!! ってか、顔がムンクの叫びに負けず劣らずだなオイ! その顔をアニメ画でお届け出来ないのが残念なくらいだよっ!」
「だってだって! 矢崎がマジで開けるからぁっ!」
「いいから泣きながらこっち寄るなッ! そしてさっさとぶら下げてるソレしまえッ!!」
「ごほぉっ!?」
とりあえず蹴っといた。あ、もちろん顔面をな? さすがに男の生のゴールデンボールを蹴る勇気はオレにはない。
「はぁ……それで? ズボン脱いで下半身丸出しで、お前はいったいナニやってたワケ?」
「ち、違うんだ矢崎! こ、これは決してナニかをしてたわけじゃなくて……そう、下半身を乾かしてたんだよ!!☆ミ」
下半身を丸出しにしたまま冷や汗をダラダラと流し、これでもかというくらい爽やかに笑ってみせる谷原。
「……アァー、ソウダヨナー。最近暑いから、下半身も蒸れるヨナー」
「ノォォォォっ!! 棒読みやめてぇぇぇっ!! 余計傷つくからぁぁぁっ!!」
もう隠す気もないのか、ブツを丸出しにしたまま四つん這いになりガッデムする谷原。
ってか、いい加減マジでその粗チ○しまってくんない? 潰すぞ? 潰していいんだな?
「はぁ……お前のせいで食欲なくなっちまったぜまったく」
とりあえず収拾をつけ、谷原の部屋に入る。
「悪かったね!! ってか、毎度毎度当たり前のようにボクんとこ来ないでくれる!? これじゃあ落ち着いてナニもできやしな――」
「いっただっきまーす」
「っておいぃぃぃ!! 食欲なくなったんじゃないのかよ!? ってかボクの話を聞けぇぇぇー!!」
ん、今日も変わらず平和だ。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
「――お、もうこんな時間か……じゃ、そろそろ帰るわ」
ふと部屋の時計を見ると、すっかり日付が変わっていた。
「あぁ~はいはーい。じゃあね~」
ゲーム雑誌に目を落としながら、たるそうに返事をする谷原。
お互いあれからいつものようにバカをやり合ったり、各々テキトーに雑誌を読んだりゲームをしたりと、ダラダラ過ごしていた。
「ああ、じゃあな。――っと、そうだ谷原、知ってるか……?」
「んー? なぁ~に~?」
オレはカバンを手に部屋を出ようとする間際、振り返らずにぼそっと呟く。
「ここの寮って、夜中の12時過ぎると、共用トイレによ……」
「はっ? トイレ?」
「……いや、何でもない。それじゃ」
――――パタン(そっ閉じ)
「さて、帰るか」
『って、ちょっとぉぉぉッ!! 夜中の12時過ぎたトイレにいったい何があるの!? ねぇ矢崎っ!! ナニがあるの!?』
ヘタレ声を上げながら、バンバン!!と自室の扉を叩く谷原。ってか、"ナニ"が出たら逆に怖ぇーわ。
『行かないで、帰らないで矢崎ぃ!! ボクを一人にしないでくれぇぇぇーーー!! 頼むよぉぉぉ!! これじゃあ夜、一人でトイレ行けないじゃんボクぅぅぅ!! 矢崎ぃぃぃぃッ!!!』
そうして、深夜を過ぎた寮内に、またも谷原の断末魔が響くのであった。
「その後、谷原の姿を見た者はいない……続く、と」
うん、ホント今日もいつもと変わらない一日だったな。
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