お父様VS私 ですの!
「お父様、宜しいですの?」
クリステラは金的の後、直ぐ様家へと向かい、直ぐに父親の元には向かわなかった。
書庫へと向かい、ある事柄を調べてから、ここに来た。
彼女の目の前には華美でも豪華でもない、ただ職人の超絶技巧を木材に落とし込んだ精緻な天使の彫刻が施された書斎のドアがあった。
(話す内容の大まかな原稿は出来てますの。あとはお父様がどう返すか……問題はそこですの。)
邪神の思惑をはね除ける為の秘策。
彼女のこれまでの、そしてこれからの全てを総動員してここに立つ。
相手は父親にして大貴族。強敵だ。
(さあ、腹をくくりますのクリステラ=アマリリス。
この扉を開く重みは何時もと全く違いますの。父ではなく、貴族アマリリス家の当主スターク=アマリリス相手にする時に臆すなんてダメですの!)
肩に入った力を抜いて、返事を待つ。
「あぁクリス、良いよ。入ってきなさい。」
「……失礼いたしますの。」
金色のドアノブを回す。
扉の天使達が無垢に笑っていた。
「どうしたんだい、そんなに畏まって。
……さては、
優男が書斎の中心の机に座っていた。
なで肩の上に温厚な顔、ニコニコ笑って上機嫌な様に見えるが、普段から表情が笑っている様に見える。
場所が場所なら商会の若旦那に見える。が、凡夫にして傑物、無害にして無敵のスターク=アマリリスとはこの人の事だ。
「おとうさまぁ!それはもう十年も前の話ですの、最近はバレない様に証拠隠滅する術を身に付けましたの!」
「それはそれは……どうなんだい?」
困った様に笑うお父様。
それを見たクリステラは嗚呼久しぶりだと思った。
(思えば、
未来、当時のクリステラがチャート初手で最悪手を打った事で両親は世界一周旅行に出掛けて、死んだ。
と言うことになっている。
無論両親は健在なのだが邪神の思惑で情報操作をされて旅行先で死んだことにされてしまい、家督は邪神の魔の手に落ちたのだ。
貴族の内、一部はそれを信じ、一部はそれが有り得ないと確信して、犯人とその本性に気付いた。
話を戻すと、そんな訳で情報操作で本来伝わる筈のクリステラの危機は両親に伝わらず終いだったため、父親とは久し振りの再会なのである。
(いいえ、落ち着きますの。当初の目的を忘れてはなりませんの。)
もう会えないと思っていた父親に会えて感極まりかけた所を戻して、切り替える。
「今日はお父様に娘の成長を見せつけて差し上げることにしましたの。」
父親の笑顔にはキラリと光る期待とナイフがあった。
「へぇ……聞かせて、貰えるかい?」
一時間後
「成る程成る程、最初はびっくりしたけど、中々練られた面白い案じゃないのかい?」
満身創痍。
一領土の長を相手に提案し、追求をいなさず躱さず正面から迎え撃つこと一時間。一秒が異常に長くて、また時間魔法が発動したのかと錯覚しながら、予め話す内容を知っていた様に鋭い質問を重ねられ、最後に数秒の思考の末に望んだ答えを彼女は手に入れた。
「提案の詳細データに少し甘い部分や粗い部分はあれど、それを塗り潰せる位の独創性と将来性がある。
巧く行けば、この国に革新が起きるかもしれない。」
膝を地面に付けそうになりながら、辛うじて立っている震える足に立てと命じる。
「でも、残念ながら今のままだとこれを持っていくのは無理かな?」
手に入れた物はすり抜けていった。
(そんな……確かにこの方法なら確実に成功する筈ですのに…………)
この世で知っているのは自分だけであろう情報を駆使して、積み上げた経験値を総動員し、命を賭けて行った大勝負。
勝算があっただけに、質問にも我ながら答えられたと思っただけに、衝撃は心を打ち崩した。
「そんなにうまくいくものだと思わない方が良いんじゃないかい?
相手は人外魔境の伏魔殿で勝ち残った精鋭達なんだ。
例えこちらが正しい事、世界に対してより良い事、相手の得になる事を進めようとしても、警戒されて止められる可能性はあるんだ。
特に今回の提案は互いの手札を公開する事が前提になるし、部外の人間にとっては協力関係が出来て目障りに思われる可能性がある。
周囲の性質を見極めた上で、こういった大事はすべきだと思うんだ。
このままだとおそらく、周到過ぎて裏があると警戒されてしまうんじゃないかい?」
冷静に、淡々と、笑顔は絶やさずに分析し、とどめを刺された。
(やっちまいましたの!急いで焦るあまり、未知情報の使い方を間違えましたの!)
未来を知れば今秘匿された情報や未発見の知識を得ることが出来る。
しかし、それを焦って開示しては周囲からの警戒心や不信感を煽る事になり得る。
たとえ未来で本人から教えてもらった秘密でも、今のその人とは別人。
知らない筈の秘密を知っている最重要警戒人物としてしか認識して貰えない。
(万事休す!チャートが崩壊ですの!)
ここで提案が通らなければあの邪神像は何をしでかすか解らない。
クリステラの命は吹き消される蠟燭の火になってしまう。
【チャートver2.0】 完!
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