いじめられっ子JKでも恋愛していいですか?
夕暮たひち
第1話 つまんねーことしてんじゃねーよ
最初は、クラスの中心グループ数人からだった。ゴミを投げつけられたり、机に落書きされたり、トイレに行っているあいだに教科書やノートがゴミ箱に捨てられていたりした。そして中心グループの目を恐れてか、徐々に他のクラスメイトも夕姫のことを無視するようになっていった。
二学期が始まるころには、いじめはさらにエスカレートした。靴箱の中の上履きに
それでも、夕姫は耐えていた。いじめに下手に反応してもアイツらが喜ぶだけだと思い、なにも言わず耐えていた。次第に夕姫は、いじめを受けてもなにも感じなくなっていった。
* * *
ある日の休み時間、クラスの中心グループの一人が、教室で一番うしろの席に座っている夕姫をからかってやろうと思い、コンパスの針を夕姫に向けた。他のクラスメイトは、思い思いの休み時間を過ごしながら、それとなくその光景を黙って観察していた。そして、その中心グループの一人が狙いを定め、夕姫に向かってコンパスを投げようとしたそのとき、
「つまんねーことしてんじゃねーよ」
ふと、夕姫は声の聞こえたほうを見た。
「なんだァ彩木、どういうつもりだ」
「別に。つまんねーからつまんねーって言ってるだけだ」
「んだとコラァ!」
高取はそのまま手に持ったコンパスを勢いよく奏雅に向けた。教室のどこかから女子の悲鳴が上がった。しかし、次の瞬間、高取の右腕は奏雅によって見事に
「いてててててててっ!!」
「……ふん」
高取が
「なんなんだ、アイツ……」
高取が困惑したように言った。その後、高取を含む中心グループはいつものようにこそこそと何かを喋っていた。クラス中が事の成り行きを見守っていたが、ほどなくして教室はいつものざわめきを取り戻した。
夕姫は、終始
* * *
次の日から、奏雅もいじめの対象となった。
夕姫が朝登校すると、夕姫の机とともに奏雅の机が教室のうしろのほうでひっくり返されていた。教室の前のほうでは、例の中心グループがにやにやと笑っていた。
(アイツら……!)
夕姫は、いじめられることには慣れていた。しかし、今回は自分だけではない。しかももとを辿れば、自分を助けた人間が、同じような目に合っているのである。自分のせいで……。夕姫の心には、今までにない感情が湧き上がろうとしていた。しかし、それをぶつけるような勇気はなかった。夕姫はいつものように目を伏せ、倒された自分の机をもとに戻そうとした。
そのとき、奏雅が教室に入ってきた。奏雅は教室内の異変を感じるやいなや立ち止まり、倒された二つの机と、中心グループの連中を交互に
しかし、奏雅は中心グループの連中から目を切ると、即座に夕姫が直そうとしていた夕姫の机をもとに戻した。そして、自分の机を夕姫の机から少し間隔を空けて隣に置いた。そして自分の席に座った。
夕姫はまたも呆気にとられてその光景を見ていたが、席に座った奏雅と一瞬目が合った。すると、奏雅はまるでなにごともなかったかのように、
「おはよ」
と、夕姫に言った。奏雅は微笑を浮かべているように見えた。夕姫はどんな反応をしていいかわからず、黙って自分の席に座った。例の中心グループが、なんだつまんねーの、という顔で舌打ちするのが聞こえた。
奏雅がなにを考えているのか、夕姫にはわからなかった。
(つづく)
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