344 長女語り草

 こんにちは。


 まぁ、長女の愚痴だと思って諦めて聞いてください。


 去年の今頃からでしょうか?弟が、昔から父が着ていたセーターを着ているのです。

 どうしてそれを貰おうと思ったかは知らないですが、母によると「他のセーターと違って暖かい」と言っているらしい。

 そりゃそうだ。バブル時代に色んなアパレルメーカーが、金に糸目をつけずに作り、消費者も平気で買っていた時代の産物です。たけしさんが色んな色の色んな模様の、色んな編み方をセーター一着に纏めたような高級セーターを着ていたあの時代のものです。件のセーターも、そこまで高級では無いですが、今もトップブランドの紳士服メーカーのもので、変わり編みを見るだけでも高かったんだろうなぁ~と分かる代物。そりゃ素材も作り方も良いから暖かいですよ。今のファストファッションブランドでは、逆立ちしても作れないものです。


 弟が気に入って着ているという事は、捨てるようなボロボロでも無く、仕立ての良いものなので型崩れや伸びても無い。父が「もう着たくない」と言うはずも無く。なのに、なぜか弟の物になっている。という事はすなわち、父の数少ないお出かけ着が一着無くなっているという事です。

 そりゃ服でもバッグでも、親子代々受け継いで使用することは美徳ですが。まだ父が着れるのに……代わりに何かを差し出したわけでもないのに。


 前のシーズンはずっと、弟がそれを着ているのを見るたびに悶々としていたのですが、またセーターの季節がやって来て。再び悶々としているのです。

 悶々が消えることはないのですが、とりあえず、お出かけ着が一着無くなっている状況を解消しようと思い、先日入った売り上げてで、両親にセーターをプレゼントしました。買って渡すのではなく、母を買い物に連れ出して自分で選んでもらったのですが。


 うちの親(とくに母親)はなかなか自分ためにお金を使うという事をしない人種でして。昔ほど裕福では無いという事も在りますが、洋服は殆ど買わない。家族にとって必要な物だけを買って来る。欲しくなるといけないから興味を持たないようにしているだけで、欲しい物は色々あるはずなんです。

 人って、好きな物を選んでお金を使うという事自体が、ストレス解消になると思うのです。日々の食料を買ったり季節の生活雑貨を買うのにお金は使っているでしょうが、それはまた別の話。母親にも好きな物を買って欲しいなぁ~と思って、私が買って渡すのではなく、買い物を楽しんでほしかった。


 私は以前から、お金が入れば冷凍の海産物やさつまいもを買ったり、家族分のバスタオル、お箸を買ったり。ケーキやお寿司も買ったり。誕生日や父の日や母の日も出来るだけちゃんと用意をする。

 それは自分もやってもらって来たから、お返しをしないといけないと思って。……でも何も貰っていない弟の誕生日にも必ずプレゼントをあげている訳ですが……


 私は弟からはほとんどプレゼントをもらったことが無い。弟がフジロックに行った時にTシャツを貰ったくらいだ。時々コンビニスイーツはお願いをしたら買ってきてくれるけど、一年に一度か二度。

 何かをもらう為にあげている訳ではないですが……末っ子と言うものは良いなぁ~と思うのです。


 末っ子は末っ子なりの色んな苦労があるでしょうが、長女・長男の苦労と質が違う。ほんとね、第一子は家族の中で育つパイオニアなわけですよ。やってもらう側面からも愛情が重いかもしれないけれど、本人もお手本が無い状態で、全てが先駆者。遊びもオシャレも家族や友達との付き合い方も。全部自分で失敗をして距離を詰めて見極めて歩んでいかないといけない。上のキョウダイの失敗や成功を見て何となく身に付くものなんて一つも無い。苦労しているんですよ……。なのに下のキョウダイが生まれると、手がかかる分注目が下の子に集まるし、自分もキョウダイが可愛いから可愛がってしまう。お菓子だってオモチャだって、我慢する側に回る。

 これは普通に育つと、末っ子は絶対に気が付かない感覚だと思う。末っ子への愛を享受し続けていると、それが当たり前なんだから。

 家族のために買われているお菓子のストックだって、他に食べたい人がいる事も思いもよらないから、全部食べちゃう。お給料が入っても気が向いた時にしか、家に還元しない。そしてセーター。


 いやね、弟は良いやつなんですよ。めちゃくちゃ性格が良いんです。でもね、末っ子で育ったから末っ子気質なんですよっ!!


 私は三人姉弟で、真ん中に妹がいました。でも妹は亡くなってしまっています。未熟児で生まれ、ずっと知的障害者で、体もずっと子供服で良いくらいの赤ちゃんで。……色々あったなぁ。妹の体調が悪く、でも家庭で介護をしないといけない状態が続いて、母親ばかりに負担が行って。これ以上何かあったらストレスで母親の気が狂ってしまうかもしれないと思った頃、鈍感で想像力の足りない父親と大喧嘩したことも有った。父親は未だにどうして私がキレたか分かっていないだろうけれど。

 父は、車で迎えに行ってもピックアップできるスペースが皆無な上に、運よく拾えたとしても、かなり先まで車を走らせないとUターンできない複雑な立地の最寄り駅まで帰って来て「迎えに来てほしい」と連絡を入れ、近くまで来たから有り難いだろうと思う人なのだ。一つ前の駅だと全てがスムーズなのに。想像力が足りない。自分の基準でしか想像出来ないから説明しても理解してもらえない。だから、私が盛大にキレた意味も絶対理解していない。

 

 そんな父親が、言わなくていい事を盛大に話題にしてくる日常で、鬱陶しいと思いながらも会話をしてあげるのが弟の優しさを表している。まぁ、本当に良いやつなんですよ。

 それでも、セーターは気になる。家族と言う物はそういうものですよ。外から見れば何でも無い事が目についてどうしようもないのです。

 でもまぁ、新しくセーターも買ったし少しは心がザワつかなくなるかなぁ……と思っていたのですが、買ったら買ったで、そう言えばアイツは両親に金を使うタイミングで使っていないな、とムクムクとしてきて……。そうだ、私は温泉も連れて行ってるしな!とか思いだしてしまって。挙げ始めたらきりがない。


 あーー、ダメですねぇ。一つ解消したかと思えば、また次のことが気になって。人間だもの、仕方ないですよね……


 長女ってね、大変なんですよ……



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