第28話 称賛と誤解と
メイデン村にある村長宅裏に雷光が走った。
ライカと紅雄が出現し、周囲に稲妻が飛び散る。
「おえええええ」
「うん、ここでなら十分に吐いてもいい」
重ねがけで酔いがピークに達していたため、紅雄は地面に吐しゃ物をぶちまけた。
「もう、本当に、もう二度と『
「いや、私とお前はパートナーだからな。いずれは一緒にまた使うよ。大丈夫大丈夫、いずれ慣れる」
ライカが紅雄の背中を優しくさすりながら微笑む。
「やっぱパートナーっていう言い方やめて、誤解されるから。それに多分絶対慣れな」
「旦那様……?」
顔を上げるとミントが口元を押さえ、目を見開いて二人を見ていた。
「パートナーってどういう意味ですか……?」
やっぱり誤解された。
「いや、これは、その、ライカが一方的に言ってるだけで、俺とライカは何でもないんだ」
酔いが吹っ飛んだ。
人気のない家の裏で年若い男女が二人きりであって、パートナーだと何だと言いあっている。完全に浮気現場の一場面だ。
しどろもどろになって説明する紅雄だったが、ミントの目は段々と吊り上がっていく。
「最近、旦那様とライカ様よく一緒にいますよね?」
「そうだっけ? いや、多分気のせいだよ」
「気のせいじゃないです!」
ミントが声を荒げる。
実はライカが村にとどまっている二週間ちょっと、暇があればライカは紅雄に話しかけていた。ほとんどは『
「旦那様、もしかしてライカ様のことが好きになったんですか? 私のことはもうどうでもいいんですか?」
「えっとぉ……」
視線をミントからそらす。まるで彼女から逃げるように。
丁度、逸らした視線の先にライカがいたので、目線で彼女に助けを求めた。なんとかフォローしてくれと。
ライカは頷き、
「そうだよ」
「やっぱりお前は黙ってろ。ミント、俺がライカと付き合っている事実はない。ライカは冗談が好きだから、思わせぶりな言い方をわざとしてるんだよ」
「冗談? そんなこと言ってない」
「シャッラァァァァップ!」
余計なことしか言わないライカを黙らせる。
ミントは若干涙目になりながら、紅雄を見上げる。
「本当ですか? 本当にライカ様とは何でもないんですね?」
不安げに確認するミント。良かった誤解が解けそうだ。ようやく、話がまとまりそうだ。
「ああ、何でもないよ」
ミントの肩に手を置き、答える。
「じゃあ、好きって言ってください」
「…………っとぉ」
紅雄の視線が泳ぐ。
「旦那様からまだ私は好きだと言葉に出してもらっていません! 一言も旦那様は私を好きだと言ってません」
ミントが紅雄の胸に縋りつく。
「それに……それに口づけもまだ、何も旦那様のほうから私を愛しているような行為をされていません」
「……ミント」
ミントの肩を強く握りしめる。
そんなに、俺はミントを不安にさせていたのか。実をいうと、自分の能力が情けないので、彼女の好意に答えられないのではないかと、姫田紅雄はミント・ライトに好かれるに足る男ではないと、思っていた。
だが、そんな態度こそが、ミントを不安にさせていたようだ。
「ごめん、ミント。俺は……俺は……」
「本当に? 君たちキスしてないの? ごめんね、先にやっちゃって」
手を合わせて申し訳なさそうに謝るライカ。
「…………」
空気が凍った。
「え、お前何? 何がしたいの? どんなに空気読めない奴でも今それ言っちゃいけないってわかるよね?」
「え?」
首を傾げるライカ。本当に殺したろうか、こいつ。
「………もう、いいです」
ドンッ、とミントが紅雄の体を突き飛ばす。
そして、背を向けて村の外へと駆け出していった。
「ミント!」
彼女は泣いていた。すぐにミントを引き止めなければと思っていたのだが、その涙を見た瞬間、紅雄の体は固まってしまった。
そのまま、走り去るミントの背中を見続けることしかできなかった。
「ライカ」
「ああ、本当にごめん、実は何で君が怒っているのかも、なぜ彼女が泣いたのかもよくわかていないんだけど、本気で怒っているみたいだから、本気で謝っておく、本当にごめん」
「お前、
「………ッ!」
以前にビリビリに引き裂かれた記憶がよみがえり、
「まさか、また切り裂くつもり⁉」
「いや燃やす」
「⁉」
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