第20話 屈辱と決意と
紅雄はライカとの決闘に勝った。『右手で触れたものと左手で触れたものを入れ替える』だけの能力で、『雷と同化し、高速移動』する能力に勝利した。
誰も予想できない大番狂わせをやったのだ。讃えられてもおかしくないはずだ。
「この、馬鹿野郎!」「どうしてあんなことをしたんだ!」「どう落とし前を付けてくれるんだ、この野郎!」
紅雄は地面の上で正座をさせられて、大人たちから罵詈雑言を浴びせられかけている。そして、彼自身言われるがまま、俯いて耐えていた。
「グス……グスン……」
「ライカ様、大丈夫ですよ。きっと
泣き続けるライカの肩を抱いて、ミントが慰めている。外で、下着姿では寒かろうライカはミントにタオルを借りて上から羽織っている。
「こりゃまた、細切れにされたねぇ……まったく、あの子は加減ってものを知らないんだから」
クインおばさんが籠に入った
「おばさん、できない?」
「え……」
ミントの問いかけに、ライカが絶望した表情を浮かべる。
クインおばさんは、その顔を見るとできないとは言えなくなった。
「いいさ、やってやろうじゃないか。メイデン村に伝わる裁縫技術を駆使して、見事にこの布切れをドレスに仕立て直そうじゃないか!」
「おおっ!」
ぱあっとライカの顔が明るくなり、聞き耳を立てていた村の男衆も安心する。
直るというのなら、もう紅雄を叱る理由もない、段々空気が和らいで、紅雄から離れ始める。
「だけど、時間はかかるねぇ、最低でも一ヵ月は欲しいねぇ」
「一ヵ月⁉」
再び紅雄を取り囲み、非難がましい目で睨みつける。
「おい、ゴブリンが来るのは一週間も経たないぞ」「もうすぐそこまで来てるぞ」「明日来てもおかしくないんだぞ」
「…………」
村人の責め苦に、俯いて滝のような汗を流すことしかできない紅雄。
「もう、よいじゃろう」
ビオ村長が村人をかき分けて紅雄の前に立つ。
「村長……」
「頭を冷やせ皆の者。そもそも、ライカ様が一方的に紅雄と決闘をした結果じゃ。ライカ様が頑なに紅雄を抹殺することにこだわらなければこのようなことにもならんかった。紅雄だけ責めるのはお門違いというものじゃ」
「それは、わかってるけど、でも……」
「それに、の。我らも援軍など期待しておらんかったではないか。王都から見捨てられたと覚悟はしておったではないか。前の状態に戻っただけじゃよ」
「…………」
村人たちが押し黙る。
ビオ村長は優しく紅雄の肩に手を置いた。
「じゃから、もう気にするな。お主もライカ様も少し希望を見せてくれただけ。元々、我らは生き延びようとも思っておらん。じゃから、お前とミント、そしてライカ様。そうそう、彼女のドレスを直すためにクインもついていかねばならんな。お前たちはもう村を出なさい」
「あっ……」
村の滅びが近づいているという現実を思いだし、皆が暗い表情を浮かべて俯く。
紅雄も同様だった。せっかく助かるはずだったのに、自分が台無しにした。公開の念に押しつぶされそうになり、拳を握り締める。
震える両手を見て、紅雄の頭に電流が走った。
「………いや、ある」
「なんじゃ?」
「手は、ある」
両手を開いて、見つめる。
「俺が、ゴブリンを倒す」
ビオ村長の目が驚きに見開かれた。
「自棄になるな、ベニオ。お主の能力では無理。それはお主が一番よくわかって」
「俺だからこそ、できるってわかったんだ」
立ち上がる。
「村長、みんな、石を見つけてきてくれ。滅茶苦茶でかくて、できれば丸い石を」
指示を飛ばすと、紅雄は村の外へ向けて駆けだしていく。
「どこに行くんじゃ⁉」
「河原! 小石拾ってくる。できればたくさん。おばさん、籠一つ借りるよ!」
紅雄は走りながら近くあった籠をとっていく。
ビオ村長をはじめ、村人たちはこう思った。
「あいつ、とうとう頭がおかしくなったか?」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます