第17話 使命と決闘と

 流石に集会場の中では戦うことはできないので、紅雄とライカは村の広場にまで出る。


「……くそ、どうしてこんなことに」


 紅雄の額から汗が流れる。


 彼の目の前にいるのは、パラディオス王国で一騎当千と言われる守護十傑聖騎士、ライカ・Gギャレック・ストレリチア。煌めく琥珀色のドレスを揺らし、準備運動のジャンプをしている。


「じゃあ、やろうか。もう行っていいかい?」


 来ていい訳がない。そんな時が来るわけもない。


「………」

「じゃあ、村長さん。決闘開始の合図を出してくれ」

「せ、聖騎士様。どうか、お許し願えないでしょうか? ベニオは良く働き、村人にも優しく接することができるいい子です。何も殺すことは」


 ビオ村長が何とか紅雄の命を助けてもらおうと、懇願するが、ライカは首を振る。


「あ~……そう言うことを聞いちゃうと弱いんだよねぇ。助けてあげたくなっちゃうけど、公私混同はしないタイプなんだ」

「ですが!」

「わかった。わかったよ。合図を出してくれないのなら、こっちで勝手に始める」


 ライカの体が稲妻と化し、消えた。


「ど、どこだ⁉」


 瞬きする間どころか、目を凝らして注目していても、一度稲妻が彼女の体が発せられると次の瞬間には見えなくなる。


「ずっと後ろにいるんだけど。そろそろ攻撃してもいい?」

「え? ガッ!」


 背中を蹴られ吹き飛ばされる。

 軍人らしく洗練された蹴りが背中にさく裂し、紅雄の呼吸が一瞬止まる。

 地面を転がり、痛みをこらえながらもライカを見上げる。


「今、私はやろうと思えば君を殺せた。本当に君の能力は『空間交換ポジション・チェンジ』とかいいうものだけ? 嘘を付いているわけじゃないの?」

「だから、そう言ってるだろ……」


 何とか気力を振り絞り立ち上がる。その足はプルプル震え、生まれたての羊の様だった。


「ふ~ん」


 再び閃光が走る。


「ほら」


 そして、ライカの拳が紅雄のあごに突き刺さる。


「ほら、ほら、ほら、ほら、ホラホラホラホラァッ!」


 全方位から叩き込まれる打撃。もはや、紅雄の体で殴らている箇所などないのではないかと思うほど、ボコボコに殴られる。そこまでやられているというのに、ライカを視界に捉えることもできない。


「が……ぐ……」


 たまらず、膝をつく。


「もうダウン? 早くない?」


 閃光が目の前で止まり、ライカが紅雄の眼前で立ち止まる。


「ぐ……あああああ!」


 がむしゃらに拳を振り上げ、ライカに殴り掛かる。

 だが、やはりというべきか、ライカは『疾風迅雷グローム・アクーラ』を使い、一瞬で距離を取る。

 空しくからぶる紅雄の拳。


「遅い、遅い、そんなんじゃ一生私をとらえられないよ。それに拳って、もうちょっと何か攻撃……君そういや、武器ないね? 持ってこなかったの?」


 今更ではあるが、ライカが何も武器を持っていない紅雄を不思議そうに見つめる。


「使えねぇし、そんなもの手に取る暇なかったじゃねぇか……」


 ライカはせっかちで、決闘の話がまとまるなりすぐ外に紅雄を連れ出した。村の男衆から剣を借りる間もなく。


「ああ、じゃあ、これ使う?」


 雷衣サンダークロスのドレスに巻かれたベルトに取り付けられた、鞘から剣を抜いて紅雄の目の前まで放り投げる。

 ライカの剣を拾う紅雄。


「いいのか?」

「どちらにしろ。君に私を傷つけることはできない」


 ライカの体から稲妻が走り、視界から消える。

 その瞬間、紅雄はダッシュした。このまま棒立ちになっても、またボコボコに殴られるだけ、ならば、少しでも打開策を見つけよう、と。


「どこへ行くんだい?」


 ふと横を見たら、ライカが並走していた。身体から稲妻を走らせ『疾風迅雷グローム・アクーラ』を極限までセーブしている反動か、全身がぼやけたようにブルブル震えている。


「くっ……」

「おっと」


 剣を横薙ぎに振ってみたが、やはり高速で躱されて当たらない。


「だから、どこ行くんだよぉ?」


 紅雄はライカをとりあえず無視して目的の場所まで向かった。


「ここだったらあれがあるだろう!」


 紅雄がたどり着いた場所は酒場。

 夜になると人でにぎわうが、昼間は静かで、紅雄たちが決闘をしているため中に全く人もいない。

 紅雄はカウンターの中に入り、瓶を手に取った。


「酒でも飲むの? 最後に酒でも飲んで気持ちよく死のうって思ってる?」


 ライカが『疾風迅雷グローム・アクーラ』を解いてフロアの真ん中に佇む。いつでも殺すことができるという余裕の笑みをたたえて。


「これは酒じゃない。ただの、水だ!」


 水が入っているだけのラベルも何も書いていない瓶をテーブルの上に乗せて、上半分を切りとった。


「?」


 瓶の細く狭まっている部分を切り取り、ただの大きなコップのような形にした紅雄に、首を傾げるライカ。


「やけになったの?」

「半分な、『紋章エンブレム』!」


 そして、瓶を左手に、剣を右手に持ち能力を発動させる。剣の柄に「R」の紋章。瓶の真ん中に「L」の紋章が刻まれる。


「へぇ、何かやるのかい?」

「動くなよ。ライカ!」


 そして、紅雄はライカに向かって切りかかる。


「学習しないね」


 ライカは紅雄の剣の間合いの距離だけ、最小限の動きで躱そうとする。『疾風迅雷グローム・アクーラ』を使い、半歩だけ後退する。


 かかった――――。


 剣を振り、手が加速する直前、紅雄は口を開いた。


「『交換チェンジ』!」

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