公爵家の末っ子に転生したので自分勝手に生きようと思います(仮)
張田ハリル@ただのアル中
プロローグ
クソゲーが終わる
近年稀に見る猛暑と言われる炎天下、そのせいで元々、最悪だった気分が余計に悪くなってくる。
別に何をしたいわけでもない、いや、何もしなくてよくなったと言った方が正しいか。つい先程だって俺にはやるべき事があったんだ。
だが、そんな事すら「明日から来なくていい」という非常な宣告のせいで全ての計画が台無しになった。
さながら今の俺はヒグラシか何かか。
空を飛び回るだけのアイツらのように明日からどうするかを悩んでいる。金だって大して残っていないし、助けてくれる人だって多くは無い。今から新しいバイトを探すか……バイトに就けたって働くまでの数週間の貯蓄だってないというのに。
刺すような暑さのせいで吹き出る汗を拭う。
今はとにかく暑い、このままでは倒れてしまいそうだ。フリーターの男が公園の近くで死亡、ニュースにしたって興味を引かれなさそうな文面だな。とりえず一度、腰を下ろしたいな。確か近くに公園があったはずだ。
記憶通り公園を見つけたから中に入る。
座ってボーッと公園内の光景を目に焼き付けた。だが、すぐに目を逸らしてしまう。この時間帯の公園は俺には眩し過ぎる空間だったんだ。夢と希望に溢れた声、男女が入り交じり一つの物事を楽しむ純粋さ……そのどれもが今の俺には無いものだった。
「俺にもこんな時期があったっけ」
乾いた笑みが漏れてしまう。
目の前の光景から目を逸らすために俯き、肩にかけていた小さなバックを膝元へと近付けた。早くここを出たい、そんな気持ちが勝り始めていた。ペットボトルを取り出す。温い、冷たくもなく、熱くもない好めない温度だ。
「二十四歳でこれかぁ……」
頭を抱えてしまう。
高校の頃は街の進学校に通っていたというのに、そんな小さなプライドが覗かせてくる。知り合いは有名な大学に行き、人によっては超がつくほどの有名な上場企業へと進んでいる。自分も同じような道を進むはずだったのに……いつから、ここまで落ちてしまったのか。
そう言えば高校の先生が言っていたな。
時計の二十四時間を人生に例えたら二十歳なんて六時かそこら。だから、自殺なんてしないで日々を楽しんで生きていきなさいって。……いやいや、無理だろ。どんな世界であろうと金が無ければ生きていけない。金が無いからといって助けてくれる人だっていないんだ。
この二十四年間で学んだ事。
それは人生はクソゲーという事だけだ。
「……アイツらと同じ学校に行きたかったな」
そんな後悔の言葉が漏れてしまう。
育ててくれた人達に感謝はしている、申し訳なさもある……だが、今更、大学へ通うわけにもいかない。中学は切磋琢磨できる友人達がいたからこそ、俺は成り立っていた。そう、言わば支えとなる人がいてこそ努力を楽しめたんだ。それが消えてしまった俺は空白でしかない。
ましてや……天に広がる空を見た。
働くこともせずに自分勝手に生きてきたというのにどうしてこれ以上のワガママを言えようか。誰がどう見ても今の俺は太った不審者、清潔感も無く伸び切ったボサボサの髪がより気持ち悪さを増長させている。だからこそ、全ての現実を直視出来ない。
涙がこぼれそうになる。
本当に俺は無能なんだな……昔なら小さな挫折だって気にしていなかったのに……。俯いたせいで地面に涙が落ちてしまった。すぐに吸い取って消えてしまったけど地面にだって嫌がられてしまったかもしれない。
何かが足にぶつかる。
俺も幼少の頃によく使っていたサッカーボールだ。内心、無視をしたかったが目の前に来た以上、そうすることは出来ない。再度、小さな溜め息を吐いて太陽のように明るい笑顔を浮かべる子供達の顔を見た。
「おじさん取ってー」
「あ、ああ……」
純粋無垢な、自分には無いものを持つ子供達。
少し高くへと飛んでしまったボールを嬉しそうに受け止めて礼をする。咄嗟に癖で返してしまうが子供達の礼より美しさはない。失ってしまったもの達が見え隠れしてしまう。
「……ッツ」
我慢出来なくなってしまった。
死にたい、生きていたくない……心が負の感情で固まってしまう。走りながらペットボトルの最後の一滴を口に運ぶ。妙に冷たく感じたのは気のせいではないのだろう。地面へと投げ捨てたペットボトル……後ろ指を刺されている気がした。
昔、よく使っていた地下鉄。
未だに残金が入ったままのカードを使って母校の中学へ向かう地下鉄の切符を買う。夕暮れより前だからか、人通りは少しだけ多い。制服を着込んだ高校生や中学生、手を繋いで笑い合うカップル……全てが俺の気持ちを逆撫でさせる。
いっそ、このまま……線の上に立ち考える。
フッと笑った。面白いのではない、自分自身への嘲笑が漏れてしまっただけだ。冗談でも考えてはいけないことを思いついてしまった自分、そこまで追い込まれているのかと口元が歪んでしまう。
だが……それをする勇気は無い。祖父母に迷惑をかけるわけにはいかないのだ。両親のいない男を育てた祖父母は男を育てるために資金のほとんどを使ってしまっている。もし仮に想像したことをしてしまったら……。
「生きるも地獄、死ぬも地獄か」
独り言、口にしてしまったことを悔やんだ。
だが、喧騒に男の言葉は掻き消された。リア充共の騒ぎ声ではない、地下鉄特有の騒がしさでもない……悲鳴だ。たくさんの人が何かを騒いでいる。野次馬根性が湧いて騒ぎの中心を見てみた。
小学生にもなっていない男の子だ。
その子が駅のホームから落ちて助けを求めている。母親らしき人はいるが足が不自由なのだろう、杖を持っていた。だからこそ、「誰か助けてください」と母親も叫んでいる。なのに、誰も助けようとはしない。
このままだと男の子は死ぬ。
でも、他の乗客達は男の子を助けようとはしないんだ。死ぬのが怖いのか、もしくは男の子よりも自分の命の方が大切か……まぁ、当たり前のことだよな。普通の人ならば未来は明るい。将来が分からない男の子のために今の自分を殺せる奴は少ないだろう。それが人間なんだ。誰も彼も他人より自分を優先して嫌だったり面倒なものは見て見ぬふり。
俺もそんなクソ野郎共の一員。
だからこそーー
「ガキ! 掴まれ!」
例え死んでもいい俺がいかないとな。
死ぬならそれでいい、生きるならそれでいい。どっちに転んでも俺の望むような結果になる。所詮はデブでフリーターの俺だ、そんな生産性のない最底辺と未来ある男の子のどちらが大切か。社会は残酷にもそれを教えてくれる。
駄目だ、手を差し伸ばすだけでは助けられない。
小さなため息を吐いて線路の上へと降りる。線路のせいで歩きづらいが子供の所へ行くのは難しくないだろう。子供は……震えていた。
何とかして子供を持ち上げたが無理だ。
こんな時に筋トレをしていなかった事を後悔するとはね。だが、上手く上がれないのは仕方がない。こんな状況で冷静でいられる奴の方がおかしいからな。男の子が上手く動けないのなら俺が力づくで何とかするしかない。
「悪ぃ! 痛てぇぞ!」
「ひっ!」
子供の足を掴んで上へと放り出した。
さすがに俺の行動を見て野次馬を辞めた人がいたからな。その人が子供を拾い上げてくれている。後は俺だけ……やっと手を差し伸ばして助けようとしてくれる人が出た。小さなワクワクが込み上げてきた……が、そんな思いは通じない。
目が潰れてしまう程に眩しい灯り。
それが日本で見た俺の最後の景色だった。
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