平凡な日常は言葉にすることで物語となる
余手などか
1日目
目が覚める時、最初に目に入るものはなんだろう。
天井の壁紙。
枕元のぬいぐるみ。
窓から差し込む陽の光。
記憶の整理が追いついていなかった頭が、
先ほどまで見ていた摩訶不思議な世界が夢で、
自分がいるのは現実世界のベッドの中であることを知覚した。
ワタシは一度寝返りをうって起き上がりやすい体勢を整えてから上半身を起こす。
――失礼、端折りすぎた。
ワタシは再び閉じかかった
枕元に置いておいたスマートフォンを起動し、毎朝の日課となったSNSの巡回を行う。
10分ほど内容のない文章の群れを目で追ううちに自然と脳は動き出し、
尿意が限界に達したところでワタシはようやくベッドから身体を起こす気になった。
トイレから出ると、ワタシは真っ先に布団の中に戻る。
この道中に、私の中の
季節は冬。
肌にまとわりつく空気はワタシを小さく縮こまらせる。
“暖房を点けて眠ったのではなかったか”、
そう思い布団にくるまったまま壁付けのエアコンに目を向けてみる。
沈黙。
エアコンは稼働中の灯りこそ光っているものの、
「設定温度に達したいま自分の役目は終わった」と言わんばかりに沈黙を貫いていた。
冬の23℃はこんなにも寒いものだったのか。
今日からは設定温度を2℃引き上げよう。
しかし次の瞬間、ワタシは自分の身体の異変に気が付いた。
なぜ気付かなかったのだろう。起きた瞬間から感じてはいたはずだ。
だが眠気やら推しの
それは、
喉の渇きだ。
※※
いつだったか、誕生日プレゼントに贈られた電気ケトルに水を注ぎスイッチを入れる。
おそらく有名なメーカーのもので、オシャレな形をした黒いケトル。
きっと高価なものだったのだろう。今ではワタシの夜食メーカーとして活躍してくれている。
部屋の空気を暖めれば暖めるほど湿度は下がり乾燥していく。冬の悩ましい取捨選択だ。
賢い人は加湿器を買うのだろうが、ワタシはあまり賢くないので数分後には買おうと思っていたことを忘れている。
ケトルの中で発せられる気泡やら蒸気やらの音を聴きながら、ワタシは急須と湯呑みを用意する。
たまにはちゃんとしたのを飲もうと思い、引き出しから少し前に旅先で買ったお茶の葉の入った
――
今日は朱色、煎茶の方を使おう。ちなみに、黄土色の方はほうじ茶だ。
合っているのかはよく分からない自己流の作法で急須の中に茶葉を入れ、お湯を注ぐ。
その後しばし待つ。茶葉が蒸されてお湯に染み込むための時間……だった気がする。専門的なことは分からないが、その方が玄人っぽいので待つ。
背筋を伸ばし、目を閉じる。
他人の目が無かろうがワタシはカッコつけたがりだ。そうしている方が心が落ち着く。
カッコ悪い自分は見たくない。
ワタシはいつだって、自分のことを評価する一番近くにいる他人だった。
瞑想すること1分。
ワタシは急須の蓋を軽く押さえながら湯呑みにお茶を注ぐ。
寒く乾いた冬の朝に、
温かいお茶を飲み喉を潤す。
なんとも落ち着いた一日の始まり。
今日は良いことがありそうな気がしてきた。
ヤケドしない位置を探りながら湯呑みを両手で支え、
ゆっくりと最初のひと口をすする。
「……」
お茶の苦さを味わいながら、
思わずため息が口から漏れた。
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