ささやかな休息。一瞬の輝きを……
ずっとそばにいるのに、いつも新鮮で新しい発見と驚きを見せてくれる梨子に、今時の少女らしくない、頑なに拒む行為がある。
それは写真を撮ること。昨今はSNS全盛で、若者は街中の至る処で何かにつけて写真を撮り、それを自らのインスタグラムなどにアップしイイね!を欲しがる。御多分に漏れず梨子も、彼等、彼女らの一員だと勝手に思い込んでいた。
映画鑑賞でもそうなのだが、僕は楽しかった思い出はパンフレット購入などで確実に記録したい性格なのだ。だから君といる今を留めておきたいと望む感情が沸き立つのは、極自然な成り行きだった。こんな現実があるなんて思いもしなかったから、逃してしまえば一生後悔する未来が訪れるのは決定的だ。
「梨子が思い出にしたくなくても、僕は梨子を確実な思い出として残しておきたいんだ。だから一緒に撮ってくれよ!」
ひたすら懇願するも、僕に服従すると言い続けて止まない君の意志は、岩のように固い。
「ボクたちは今!楽しいコトしてるんだよ。実クンの老後の楽しみのために一緒にいるんじゃないんだからね。実クンだったそのためにボクに付き合っている訳じゃないでしょ?それに写真はその一瞬だけの記録なんだよ。思い出はその時その時の相手の顔の表情や、気持ちや景色が連続して頭の中に残るものでしょ?だから思い出のほんのゼロコンマ何秒の証拠なんてボクは絶対残したくない!」
君の言葉はいちいちもっともだ。熟慮すれが反論の武装もできるが、とても十数年しか生きていない人間の考えとは思えない、一瞬の閃光に返す言葉はない。何度も言うが達観している。堕落したおっさんの心にいちいち染み渡る。
それでも、君の姿は絶対残しておきたかった。
東後ドームからの帰り道。地下鉄を待つ、ホームの椅子に腰掛けた時、君は、束の間、疲れて僕の隣りで居眠りをし、肩にもたれた。ここぞとばかりにあどけない寝顔の君と一緒に小さな額縁に納まろうとした。気づいた君は慌てて顔を隠し、すぐデータを削除してと詰め寄った。君の立会いのもと、僕は渋々データを消した。でもごめん、僕はその前にもう一枚君の姿を残していた。それは絶対に気づかれないよう、データを引出しの奥に隠した。
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