異世界?気に食わねぇので滅ぼします!日本最強の妖刀と神の宿る骨董品で国潰し!! ~真・異世界骨董無双 神々の失敗~

竹本蘭乃

第1話:理不尽に吊るされる少年

ながれ……流よ……」


 んん……誰だ……俺を呼ぶヤツは……それにしても、心底くっそムカツク声だ。


「おんし、今なんと言うた?」


 また聞こえる……ひとが気持ちよく気絶ねているってのに、一体なんだ……。

 あれか? 悪夢ってやつだな。あぁそうだ、そうに違いない。大体この不愉快極まる、しわ枯れた声はあのクソジジイ……ん? じじい?


「こんの大馬鹿もんがあ!! 誰がクソジジイぢゃ!? さっさと起きんか馬鹿孫めが!!」


 突如、硬いものが右側頭部に当たった事で、激痛が俺の頭を襲う夢をみる。

 いや、そんな生易しいものじゃない。それは悪夢より酷い目覚めがそこにあったからだ。

 

「クォォッ!? 痛っでぇぇぇッ――ひぅッ!?」


 目覚めた瞬間、全てを思い出す。ふつうの中学生な俺が、今どこで気絶していたのかを。

 ここは天険剱岳てんけんつるぎだけ。その一般登山道から大きくそれた……いや、絶対に近寄らない場所であり、岩が刃物のように切り立つ場所に俺は吊るされて・・・・・いた。

 そう、ミノムシのように吊るされた眼下には、ナイフのように突き出た岩が、俺を熱く抱擁ステンバーイ中なのが嬉しい。


「ジ、ジジイ!! 早くおろしてくれよ!!」

「大馬鹿もんが! わしを呼ぶ時は、御爺様と呼べと何度言えばわかる?」

「そそそ、そんな事言ってる場合じゃねーよ!! キレル、ロープが切れちゃううう!!」


 妙な音を感じ、首を無理に上へ向け原因を探る。見れば俺が吊り下がっているロープが、プチプチと音を静かに鳴らす。

 徐々に崩壊しているソレは、ロープの役目を終えようとしていた。

 それと言うのも、切り立ったナイフのような岩肌を支点にぶら下がっているからだ。

 暴れれば確実に切れて、どこまでも蒼い空を楽しみながら、登山時の苦労を忘れ、労せず外界へと戻れるだろう。

 

 苦労しないで生きれるのはスバラシイ。帰りは楽が出来そうだ。切り立った岩肌に、なます切りにされながらだが……未来の俺よ、グッド・ラック!


「と、妄想する程に、もうダメです御爺様!! お願いタスケテー」


 愛する孫から親しみを込めて呼ばれるのは、実に心地が良い。

 満足げに思う漢は、御年六二歳の仙人のようなヒゲを生やした、妙に体が引き締まった鷲のような瞳の御老体だ。

 そんな孫の頼みを優しい瞳で見つめる祖父は、実にいい笑顔でキセルの煙をくゆらせる。

 口をゆったり開き、剱岳の風情を楽しむように〝ふわり〟と煙を吐き、愛する孫へ優しげに語りかける。


「しらんがな」


「鬼いいい!! 悪魔あああ!! 骨董狂いいい!!」

「やかましいわい。骨董狂いなのは、おんしも同じだろうて。ほれ、早くしないとロープが切れてしまうぞ? 享年十五歳、美女を知らずにあの世へ立つと、墓に刻まれたくはないじゃろう?」

「無理!! の力でロープを切れってんだろ!? つーか墓碑にオカシナ言葉を刻むんじゃねえ!!」

「無理、か。おんしはやっと初伝を超えて、『中伝の序』まで来れた。ここまで来れるだけでも破格。そう、古廻こまわりの家系で使えるのは、わしと……流、おんしのみよ」

「大体って何だよ!! 俺はハワイの大王なは撃てんぞ!!」


 そんな愛する孫である、ながれの言葉を噛みしめるように、祖父は語りだす。


「あれは……そう、わしがお前と同じ頃じゃったか。父上がのぅ、隣の嫁さんの尻を触ってたのがバレて、母上に三連斬で半殺しにされた時じゃったか」

「あの。話しを聞こうよ、御爺様?」

「母上も古廻の者よ。なれど父上にはわざも力も及ばなかった。が、母上は気の使い方が実にうまかった」

「ぁ……ロープの芯があと三本でキレチャウ。さようなら……先日手に入れた、北斎が趣味で書いた西洋美人画の人。生まれ変わったらチャペルで結婚しようね。そして御爺様は俺の話しを聞こうね?」

「母上はいつも言うておったよ。気とは『絶対にブッタ斬ってやるわよ』って気合で、ヘソのしたである、丹田たんでんへ込めた力を具現化すると。そう、このようにな」


 祖父は座っていた巨岩から立ち上がり、腰にいだ刀を抜刀する。

 周囲の澄んだ空気が一層研ぎ澄まされるように、祖父の持つ日本刀へと集約する。


「さらばだ愛する孫よ。わしも寿命が来たら・・・・・・すぐに逝くゆえ、寂しがるな」

「それ、すぐぢやあねーですよね? ねぇ!?」


 祖父は孫の言葉に優しげな表情で応えると、自分のいる場所から五メートルほどのロープへと向かって構える。


「中伝の要、気を集約すればこういう事も出来ると、残りの命を使い学ぶがよい。気刃きじん――裂空斬れっくうざん!!」

「ちょおおお!?」


 祖父は、左斜め下から右上に斬り上げる。一瞬、刃が白銀に輝いた後、長さ二メートルほどの三日月の斬撃が流へと向けて襲いかかる。

 が、方向を上部へと修正したソレは、文字通り命綱のロープを容赦なく斬り裂く。


「ヒッ!!」


 支えが無くなった流は真っ直ぐに落ちる。そこには流を熱く抱擁するナイフのような岩が日光を反射し、白く輝く無言の暴力が待つ。


「クソジジイ!! 覚えてろおおおおおおお!!」


 絶叫しながらも生きるため、冷静にこれまでの修行を思い出す。走馬灯モードなのか、意外と時がゆっくりと進んでいるように感じる。

 

(思い出せ!! 気は丹田たんでんに宿る……頭の上丹田、胸の中丹田、そしてヘソしたの下丹田。これらを励起れいきさせ、一気に爆発させる!!)


「ブチ切れろおおお!!」


 流は一気にそれを行うと、両腕に刃のイメージを形成し、拘束されていたロープを切り脱出に成功する。が、眼下に迫るナイフのような巨石が迫ること、残り数メートル。

 さらに気を研ぎ澄まし、右手を日本刀だと思いこむように気を集中させる。


「ジジイりゅうモノマネ術・気刃きじん――裂空斬れっくうざん!!」


 右手を左上から、袈裟斬りに右斜したへと打ち下ろす。

 瞬間、白銀が目前に現れ、『六メートル』の三日月の斬撃が、ナイフ型の巨石へむけて襲いかかる。

 

 それが巨石へとブチ当たり、硬質で甲高い音が山々へとこだまする。

 まるで金塊が切断されかのような、硬質だが柔らかく、それでいて南部鉄の風鈴を思わせる、涼を感じる心地い音だった。


 その直後、巨石が真っ二つに裂け、その後爆散しながら砕け散る。


「よし、やったぞおおお!! ――ぁぐあッ!?」


 流は命が助かったことに喜ぶ。体勢を整え着地しようとした瞬間、体は足元から強引に上部へと引き上げられる。

 それは祖父が落下中の流の足へ投げた、別のロープで引き寄せられたからであり、さらに――。


「あぁ、スマヌ。反動で別の岩にぶつかったか。……ん? また気絶したのか」


 見れば反動で戻った事で、別の岩に顔面から突っ込み気絶する流。

 そんな流を見て祖父は「情けない」とため息をもらすが。


「やはり、おんしは歴代の古廻家で最強かもしれぬな。得物カタナも無しにようやるわい」


 祖父は破壊された岩を見てニヤリと口角を上げる。そして気絶した流を担ぐと、天狗のように岩を飛び越えていくのだった。


 ここは飛騨山脈北部にある、天険剱岳。

 古廻こまわり ながれが祖父より理不尽にわざを叩き込まれた、楽しい修行場の一つである。

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