第72話 聖女リナちゃんのお父さんの罪
俺はシエナの考えがわかった。
シエナの考えに間違いはない。
むしろ責められるのは俺の方だろう。
シエナは俺を許してくれるのだろうか?
しばらくシエナの前でも人を処すのは止めておこう。
無用な争いは避けたい。
そんなことを思っているとアリス達が来てしまった。
「ノア君、ごめん。アッサシンみたいなのが大量に現れて追われて来たの」
「アリス、わかった。俺が処す。みなはここで待っていて」
「ううん、大丈夫だよ。あらかた殺したし、死体で抜け道に栓したからしばらく時間が稼げるよ」
やべぇ。一番まともだと思ってたアリスが一番ヤバかった。
死体で抜け道に栓するとか俺でもちょっと思いつかんな。
見るとルナとリナちゃんの顔色が悪い。
二人共ブルブルと震えている。
今度からシエナじゃなくてアリスを連れていこう。
かえって心配だ。
「リナちゃん、大丈夫?」
「だ、大丈夫……です。お姉ちゃんがちょっと怖くなったゆけど」
「ご主人様ぁ~」
ルナが泣き目で訴える。
「ルナ、よしよし。もう大丈夫だよ。アリスもやむをえなかったんだよ」
「でも一瞬で100人位の人の首が飛んだ時はちびりそうでした」
そんなこと女の子の目の前でしたのか……。
戦士のルナがこんなにビビる位だからリナちゃんは……。
だが、意外にもリナちゃんは目に決意の籠った光を携えていた。
「お兄ちゃん達強いゆ。だからお父さんを殺してくださゆ。悪いことは止めゆの」
決意が籠った目には涙が浮かんでいた。
「わかった。でも、お父さんにも事情があるのかもしれない。それを聞いてからだ」
「うん。わかったゆ」
視線をシエナに合わせると、シエナはコクリと頷いた。
☆☆☆
例の吊るされていた女の人や鎖でつながれていた人たちを開放する。
「ノア君、駄目だよ。この人達、中途半端に治癒魔法をかけられていて、切断された手や足の根本が丸く回復していて、もう元に戻らないよ」
アリスが悲しそうな声で言う。
俺は掌に力を込めた。
比較的被害が少ない人から事情を聴いた。
「わ、私は聖剣教を信じて入信して……そうすれば辛いこの世界から解脱できるって……そう信じて……私の息子たちはみな子供のころにみな死んでしまって……前世での行いが悪かったからだって……だからここで修行して解脱すれば次の来世では子供たちに再び会えるって、そう信じていたのに……う、嘘だった……みんなこんな扱い受けたり奴隷として売られたり……」
彼らは聖剣教の信徒だった。
多額のお布施を払い、入信し、更に多額のお布施を払ってこの教会で住むようになった。
そうすることで天国に導かれると……そう信じて……でも待っていたのは地獄だった。
どうやら、この新興宗教は人を食い物にして全財産を吸い上げると最後は処分。
つまり最後は貴族のおもちゃとして殺したり、やはり非合法で奴隷商に売りさばいたりしているようだ。
リナちゃんのお父さんの罪は重い。
察するにリナちゃんのお父さんはこの聖剣教の実力者だろう。
「お姉ちゃん。この人は助からないの?」
リナちゃんがバラバラに切り刻まれた女の人の遺体を見て言う。
目には涙が浮かんでいた。
「リナちゃん。ごめんね。私の治癒魔法でも……一度死んだ人はもう生き返らないの」
「そゆなの」
下を向いて思いつめた顔をするリナちゃん。
自分のお父さんの罪を目の前にして悔いているだろう。
☆☆☆
俺達は拷問場を後にした。
道は更に続いて行く。
おそらくこの先にこの教会の暗部の総本山がある。
証拠の被害者たちはシエナとルナに守ってもらって、アリスとリナちゃんだけを連れて行った。
リナちゃんには苦しいだろうが、リナちゃんの双眸の決意を見て、あえて連れて行った。
それは俺がリナちゃんのお父さんをあまり惨く殺さないためでもあった。
良心の呵責はあったが、リナちゃん自身の願いでもあった。
「お兄ちゃん。リナは覚悟はできてゆの。許されないことあゆの。だから連れて行って」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます