第70話 ノア、外道の貴族を処す

「だ、誰か! 賊だ! 賊が出た!」


啖呵を切った俺の前の貴族と思しき二人の後ろの扉から黒装束の男達が続々と湧き出て来る。


「……ッ! お、お前ら! 早くこいつらを殺せ! いきなりそこの壁から出て来やがった!」


「我ら聖剣教異端審査官にお任せください」


「おお! 頼むぞ。だが、左の女の方は生きてとらえろよ」


「承知」


何故シエナだけを生きて捉えるかは容易に察しがつく。


「死んでもらいます。この人がどうなってもいいのですか?」


先頭の男は一緒に一人の女性を連れて来ていた。


「た、助け……て」


顔色には絶望が浮かんでいた。


先頭の男はリーダーなのだろう。


一番前に進み出て、女性の首にナイフを突きつけていた。


「さあ、動くとこの女の首を掻っ切りますよ。どうします?」


卑怯だな。


俺が罪のない人に危害が及ぶのに黙っていられる筈がない。


「さあ、その遺物としか思えない剣をこっちに投げなさい。そして手を上げて降参しなさい」


俺は剣を前に投げる。


そして手を上げて降参の姿勢をとる。


それにシエナも続く。


「ふふふ、どうも正義の味方という奴らはこういう方法が良く効くと見え……え?」


男は突然驚いた。


俺が手を下ろし、剣を拾おうとしたからだ。


「何を勝手に動いているのですか? この女を殺しますよ?」


「どうやって殺すんだ?」


「このナイフで首を掻っ切るに決まって? え? な! ない? ナイフがない?」


男にはナイフがなかった。いや、そもそも手首がなかった。


「ぎゃぁぁぁぁぁぁぁあああああああ」


俺は上指をで上げる時に指パッチンをすると男の手首に向かって空気弾を飛ばしていた。


「な、ない! 俺の手がない!」


俺が剣を構えると。


「……ッ! お、お前ら何をしている! こ、こいつを殺せぇ!」


「はッ!!」


加速のスキルを使い、俺に切り掛かる賊、5名。


「死ねぇぇぇぇぇえ!!」


次の瞬間。


「へ? ま、待っッ!」


ズシャ!!


5人は一瞬で粉々の肉片に変わる。


そして、先頭の男の頭がコロコロと俺の足元に転がって来る。


「は?」


「ま、待って殺さないで!」


ただ驚く者、戦力の差を理解して慈悲を願うもの。


だがな。


悪人に人権はない。


処す。


俺は足元の男の首を無造作に掴んで持ち上げると、先程の卑怯な男に向かって投げた。


「ま、待ッ!」


「なぁ!」


「どへぇ!」


「ほげッ!」


ドンという音速の壁が破られる音と共に固まっていた残りの賊が一瞬で肉片に変わる。


残りの全員は木っ端微塵に爆散して血潮がドアに吹き飛ぶ。


ビシャ!


ドア一面が真っ赤な肉片と血に染まる。


人質の女性はシエナが加速のスキルで一瞬でこちらの元に保護していた。


「ヒ、ヒィ!」


「た、助けてぇ! 誰かぁ!」


そして貴族達二人が残った。


「さあ、残りはお前ら二人だな。今、その女の人を切り刻もうとしていたな? お前らに逆の立場を教えてやろうか?」


「や、止めて、止めてぇ!」


「い、いくらだ? いくら欲しい? それとも女か? なんでもやるから、だから!」


フッ。


「お前らと一緒にしないでくれよ」


俺は貴族の一人に近づくと、まずはその手を捻り上げた。


「い、痛い。痛い!」


「お前らはどうせ少しづつ刻んだんだろう? なら同じことをしてやるな」


ボキ。


まずは指の骨を一本折った。


「ぎゃぁぁぁぁぁぁあ!!」


全くうるさいやつだ。


四肢を切断されるより余程マシだろうに。


「言っただろう? 人を面白半分に切り刻んだ罪、貴様ら自身にも刻んでやると? 他人の幸せを踏みにじっておいて、自分たちだけのうのうと生きて行けるなんて思うんじゃねえ!」


ドン!


気がつくとシエナがもう一人の貴族を魔法で殺していた。


そんな簡単に殺すのか?


「た、頼む! いっそ、一思いに殺してぇ! お、お願いらから!」


「嫌だな。お前らそういう懇願を聞いてどうして来たんだ?」


顔が曇る貴族。


やっぱり、命ごいも懇願も無視して、いたぶり殺したか?


ならば、同じ思いをさせてやった方がいいだろう。


俺は恋人繋ぎで貴族の手を握る。


何をするのか察した貴族は泣き喚く。


「や、止めて、止めて! お前正義の味方なんだろ?」


すまんな。


俺は別に正義の味方じゃない。


むしろお前らに近いのかもな。


バキバキバキバキ。


俺は手をぎゅっと握って貴族の指を一気にへし折った。


貴族の掌から骨が見える。


「あ! ふ! や、止めて。こ、殺して……おねがいらから」


「そうは行くか!」


俺は貴族の右手を掴むと……。もいだ。


「ぎゃぁぁぁぁぁぁぁぁあ! なんで私がぁ!」


なんでだと?


わからんのか?


俺は右手の次は左手をもいだ。


「あぷ、かぁは。し、死ぬ。や、やめ。こ、殺して。殺してください。お願いらから」


両手をもがれてもしばらく人間は生きているようだ。


じきに死ぬだろうがな。


「……お願いらから」


貴族ははいつくばって懇願して俺を見上げた。


「わかった」


そう言うと。


ベシ。


俺は貴族の男の頭を踏み潰した。


ピクピクと痙攣しているが、即死だろう。


こいつは被害者に一度でも慈悲を与えたとは思えんが、シエナの前ではこれ以上はな。


「ノア様、お話があるのです」


「ああ、俺もシエナに話がある」


俺とシエナの間に緊張が走った。


殺しあいになるかもな。

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