第56話 勇者vs魔王の戦いが始まってしまった

「きゃー! やだー! メスガキに襲われるー!」


「ノア様! 大丈夫ですか? シエナに任せるのです!」


そう言ってシエナが個室に入って来る一瞬手前。


魔王クロエは卑怯にも俺と上下の体制を入れ替えてしまった。


つまり今は俺がクロエちゃんを押し倒してしまっている状態。


しかも、俺の右手はしっかりとクロエちゃんの胸に置かれている。


モミ。


俺はつい揉んでしまった。


まだ育ちきっていない、僅かに膨らんだ胸を。


お、俺が悪いんじゃない!


こんなところに手を置いたクロエちゃんが悪い。


「こんな小さい女の子の胸揉むなんて……ざっこ、くふっ♡」


「こ、このっ!」


不可抗力だろうが!


「安心するのです。ノア様。シエナは1分前から何がおきているのか把握しているのです。10分おきのストーキングのチェックで覗いたら、ノア様がその子に押し倒されていたのです。それにわたくしがこの部屋に入る直前に体位を入れ替えていた事もわかっているのです」


「あ、ありがとうシエナ! 信じてくれるんだね?」


「いえ、唯の事実なのです。それよりノア様、その下半身の隆起を早く治めないと大変な事になるのです」


うう。


俺の下半身のバカ。


しかし、シエナに重要な事を伝えないと。


「シエナ。気をつけて! この子、魔王だ! さっき鑑定したら魔王だったんだ!」


「な、なんて事ですの? まさか……いえ、ある意味それは必然なのです」


俺は未だにクロエちゃんの胸を無意識に揉みながらシエナにしっかり伝えた。


「魔王よ。わたくしは暁の勇者シエナ。どうやらこれは運命に導かれたようなのです」


「そのようね。あなたが勇者? 確かに運命。古よりの運命に従い雌雄を結しましょう」


え?


ちょっと待て?


こんな所で勇者と魔王が戦ったら?


俺はタラリと冷や汗が出た。


最悪このアシュフォードの街が消滅。


その可能性がある。


「待て、シエナ! ここで戦うのは不味い! クロエちゃんも頼む。この街の人に迷惑をかける事になる。頼む! ここじゃなく、他の場所で!!」


「何を言ってるのお兄ちゃんは? こんな最適な場所で?」


「魔王の言う通りなのです。こんな最適な場所。個室で防音魔法もかかっていてシャワーの設備もある」


「シャワールームはマジックミラーの仕様よ。お兄ちゃん」


は?


この部屋はラブホか?


ていうか、それが一体何なの?


「では、雌雄を決するのです。魔王、覚悟をするのです」


「勇者のあなたの方こそ覚悟するのです。どうやらクロエの方が有利のよう♡」


「や、やめろー!!!!」


俺は絶唱した。


ここで戦いが始まったら、ここは廃墟に!


だが、次の瞬間、クロエが左手、シエナが右手にまわり俺にピトっとくっ付く。


「えっと? これどういうコト?」


「ですから勇者と魔王の決戦なのです」


「そうです。お兄ちゃんは魔王を選ぶか勇者を選ぶか早く決めるの♡」


「はい?」


俺は意味がわからない。


「どうやらノア様は最近の勇者と魔王の戦いを理解していないのです」


「そうみたいね。お兄ちゃん。500年位前から人の迷惑になるから女神様が勇者と魔王の争いは意中の人をどちらが落とすのかで決着をつけているのです。お兄ちゃんのお嫁さんになると言ったあの日のことも女神様に導かれた運命♡」


「そうなのです。勇者になった時からこうなる事は運命とわかっていたのです。わたくしにはノア様しかいないのですから、だから早くわたくしを抱くのです」


え?


勇者と魔王の戦いってそういうシステム?


確かに人々に迷惑はかけないけど。


スルスルと服を脱ぎ始めるシエナ。


ちょ! シエナ! パンツ脱ごうとするな!


クロエはもう脱いでる。


見えちゃうだろ!


全年齢対象になるけどアウトな映像だろ、これ?


人に迷惑をかけない?


俺が迷惑だろ!


「キャ〜!! た、助けてー! ヤンデレとメスガキに襲われるー!」


気がつくと俺は大声を出して個室から逃げ出していた。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る