「話せない店主」ショートストーリー

エゾフクロウ

第1話

「ううっ、もうダメかもなぁ」


俺は、突然降り出した雪で、うっすらと雪が積もる通りを黄色いスクーターでそろそろ走っていた。


もう寒さと雪で走れそうにもない。


信号待ちでふと反対側に目をやると、黄色い街頭に照らされた、スノーマンが視界に入った。


その後ろには、少し古ぼけた木造のカフェが見える。


格子枠の窓越しから、店内のゆらゆら炎が揺れる暖炉が見えた。


スノーマンは3段にシルクハット。


鼻は定番の人参だ。


心配そうにこちらを見ている。


店を飾る縁取りには、「coffee」「cocoa」のオーナメント。


「助かった、こんな所にカフェが、、、」


裏手に入口、欅の木の下にスクーターを止めた。


暖色の電飾、足元を暖かく照らしてくれている。


入口には木製の縁取りがされた黒板。


「ごめんなさい、店主は話せません」


「本日、ココアにクリームをサービス中」


店内に入ると、客は俺だけ。


白い髪、白い髭、白いシャツ。


店主は会釈する。


「ココアをお願いします」


カカオの甘い香り。


カップには雪の蓋。


生クリームを浮かばせたココア。


丁寧にココアと生クリームを混ぜる。


両手をカップで温める。


ココアを静かにすすった。


パチパチと暖炉から薪の音。


外はしんしんと雪が降る。


色白の店主。


白いタオルでグラスを拭く。


ゆらゆら揺れる炎をみる。


しばし暖を取る。


店を出た。


過度なまでの甘さは冷えた体に染み渡った、まだ口の中が甘い。


俺は黄色いスクーターを押して帰ることにした。


通りに出るとスノーマンは少し溶けていた。


話せないスノーマンは、笑みを浮かべて俺を見送っているように見えた。


「雪が降ったらまたこの店に来よう」


薄く雪が積もってた小道を、雪の積もったスクーターを押して俺は帰った。

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「話せない店主」ショートストーリー エゾフクロウ @ezofukurou

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