(元)陽キャの俺の現在の日常は、隠キャの幼馴染み女子とまったり過ごすことです。
赤木良喜冬
本編
#放課後
第1話
七月六日。
休み時間、友人の
「なぁ
「……あ、ああ。いいけど」
「じゃあ
は? それくらい自分で言えよお前ら付き合ってんだろうがっ! っていうか「いい感じ」ってなんだよ!
……という気持ちは一旦置いておいて、頼まれた以上はやらなくてはならない。俺はクラスのカースト上位に居続ける努力を惜しまないのだ。
ため息一つ吐いてから、俺も教室へ戻る。
目に入って来るのは、いつもの風景。一人で座っている者、仲の良い二、三人の集まり、同じく二、三人だがそこそこ声の大きいカースト中位の集まり。
だが、俺が属しているのはそのどれでもなくカースト上位! 教室の後方に集まる、美男美女で形成された見目麗しいグループだ。
中学で隠キャぼっちだった俺は高校に入学と同時に、流行のファッションやヘアスタイル、音楽、動画コンテンツなどを片っ端から調べ、そして会話術も学び、この一年C組で素晴らしい高校デビューを果たしたのだ。
カースト上位グループは女子三人、男子四人。そしてそこで、カップルが三組存在している。
それが何を意味するか、それは、男が一人余っているということ。で、それが……俺だ。
でも、これには色々事情があって……
まぁそれは一旦置いておいて、今は沢田の手伝いをしなくてはならない。現在は佐藤の席の周りに皆が集まっている。
俺もそこへ戻ると、今はちょうどその佐藤が何か話していた。
「あーも、最近暑くてマジ外出たくなくない?」
「そ、それな……」
もちろん今、日和ったのは沢田だ。
おい、沢田よ。七月なんだから暑くて当たり前だ。つまり佐藤はなんとなしに言った、今こそ自然な流れで解決案を……まぁ、そんな思いが伝わるはずもなく、彼は困り果てた顔で俺に目でレスキューを求めてきている。
仕方ない、助けてやろう。
「いや〜ほんと暑いから、海とか行きたくなるよな」
「は? 海とかだるっ」
佐藤が気だるそうに呟いた。うわっ、嫌そうな顔!
俺は頭を掻いておどけてみせる。
「なら佐藤、お前は沢田と仲良くどっか行ってろ! 俺は一人でも海に行く」
「ふ〜ん、ばっかじゃないの?」
そう突き放すように言いながら、佐藤は沢田に顔を向けた。その瞬間に、俺は沢田に「今だ」とアイコンタクトを送る。
すると彼は意を決したように軽く頷き、口を開いた。
「戸田もそう言ってることだし美奈、週末ランド行かね? 前行きたいって言ってたじゃんよー!」
「え、別にいいけど?」
「マジ、やったわー!」
佐藤に見えないように、沢田は小さくガッツポーズした。俺は心底思う。……お前ら、付き合ってるんだよね⁉︎
そんな呆れから俺の口の端が歪みかけるのと同時に、四時限目の始まるチャイムが鳴った。
***
昼休みになり、俺が食堂へ向かうために教室を出ると、後ろから俺以外の足音がついてきた。
振り向くと、そこにいたのは俺たちのグループの友人、
もうどうせ向こうの要件は大体想像がついているが、一応問いかける。
「どうした?」
「実はさっき、まなかと言い合いになっちゃて……どうしたらいいかな?」
こいつは
まーた喧嘩したのか……、でもコイツらの場合、毎度「痴話喧嘩」ってレベルじゃないんだよなぁ……。もうマジで怖いんだわ、上井草まなか。コイツもよくあんな女を好きになったものだ。
「まずなんで喧嘩したんだよ」
「昨日俺がライン一時間放置してたら、まなかがキレ出した」
「それ、喧嘩じゃなくて単にお前が悪いだけじゃね?」
「やっぱそうだよなぁ……」
だったらお前が死ぬほど謝ればいいだろと思ったが、それはやめておくことにした。なぜなら上井草まなかは、なぜか俺にはそんなに強く当たってこないからだ。だから俺が何か気の利いたことを言えば簡単になんとかなるだろう。
「分かったよ、任せろ……」
「戸田、すまん」
入野は手を胸の前で合わせて神に祈るように礼をすると、教室へ戻って行った。あいつは食堂へ行くわけではなかったようだ。
上井草は食堂でパンを買って教室で皆と食べるのが日課なので、自然とこの後会うことになるだろう。
俺たち一年の教室は一階なので、同じく一階にある食堂にはすぐに着く。中に入ると、すでに大勢の生徒で賑わっていた。並ぶのが嫌だからせっかく早く教室を出たのにちくしょう入野皓太。
しかも上井草も探さなくてはならないわけだが、食堂までの行き方は一通りしかなく、確実に俺は彼女より先に教室を出たので、まだここにはいないんじゃないだろうか。
そう思い食券を買う列に並んでいると、運よく上井草が入ってきた。
それまでの弛緩していた空気に、ほんの一瞬だが確かな緊張が走る。
一際目立つ美しい顔立ちにウェーブの掛かった茶髪のロング、細くて長い綺麗な生足、それらを見せびらかすようにして、彼女は何故か……俺の前にやってきた。
「戸田、あんた皓太になんか頼まれたっしょ?」
「さて、どうだろうか……?」
「いいって惚けなくて。分かってっから」
「……そうかい」
どうやら上井草は彼氏のヘタレ行動を全部分かってるようですね……。彼女が全部把握してるなら、俺も楽ってもんだ。
それはそうと現在、俺の後ろには普通に人が並んでいるのだが、もしかしてこの人、俺が並んでるって理由でここに割り込むつもりじゃないだろうな……。
そんなことを思いつつ端的に述べる。
「じゃあ単刀直入に言うぞ。入野を許してやってくれ」
「やだ」
「えぇ……、そこをなんとか!」
「あのさ、あんた余計なことしなくていいから」
そう吐き捨てるように言うと、俺の返事など聞く気は一切無いらしく、上井草はつかつかとパン売り場へと向かって行ってしまった。そっか、パンは食券いらないもんな……。
まぁ、上井草がそう言うならお言葉に甘えて俺は何もしなくていいか。正直、入野は彼女の尻に敷かれているようなもんだし。そして俺はやっぱり思う。……お前ら、付き合ってるんだよね⁉︎
味噌ラーメンの食券を買い、今度はカウンターのラーメン列に並ぶ。マジで疲れる……。あえてゆっくり飯食ってから教室戻ろっかなぁ……。
なんてことを考えていると、すぐに俺の番になっていた。味噌ラーメンを受け取り、適当に窓際のテーブル席に座る。ここは他と違いやけに静かだ。
その理由はこのテーブルにいるのが、隅に座っている女子生徒……俺の幼馴染みだけだからだろう。
彼女とは小学校の頃、仲が良かったが、中学に入ると自然と話さなくなり、そのまま現在に至る。
なんだかお互い気まずく、話しかけられない。
誰かのツイート
『高校に入って、幼馴染みが陽キャになったw
性格もなんか変だし!
前のままで、良かったんだけどなぁ…… 』
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます