つまらない私は私は子供達を助けたい
荒瀬竜巻
第1話 佐藤虎次郎
ナースセンターから出て、エレベーターで地下に落ちる。その中にある鏡にはいつものようにつまらない顔をした私と、つまらないナース服、そしてつまらないナース帽とそこにつけてあるつまらない名前。
うんやっぱりいつもの名前だ。
私の仕事はこの地下病練の子供達の看護をすること。子供たちの様子を常に見て、お医者様のカルテに従い看病をする。今日は……昨日の夜に急患で来た子がいるだけか、私の知ったことではない。それよりも担当している子供達の様子を見ないと。
カルテNo.18181225
病名:イヤイヤ病
身体に赤い斑点がいくつもあり、自分の気に入らないことを断固拒否する病気。強要した場合暴力につながることもあるので、そうなった際には無理に刺激しないこと。この病気の患者はこだわりが強いことが大半。
なおこの患者にはさらに駄々っ子と言われる癇癪を起こした際に自身の頭や手足を地面に叩きつける現象が見られる、怪我を防ぐ目的で病室の床を全て布団にしている、週に一回全てのシーツを取り替えること。精神年齢は決して低くないので論理的に話すと物事が進め易い。また情緒不安定。
佐藤虎次郎くんは私がここで働く前からいる見方を変えればこの病練での先輩だ、多分最年長一歩手前だと思う。このつまらないカルテに書いてる通り、悪い子じゃないしこだわりが強い以外はただの男の子だ、入ったばかりの時は近道とか他の看護師さんの事とか色々教わっていた。
病室の手前、ドアを2回ノックして入ってもいいかを確かめる。それがこの地下病練のルールだ。みんな気持ち一つで病気の進行から治る見込みまで全て変わってしまうから、患者同士でもお互い気を使っている。
「佐藤くん、犬田です。入ってもいいですか」
「ああ犬田さん、どうぞ」
落ち着いた高校生の男の子の声、よかった今日は気分が良いみたいだ。失礼しますと一礼して中に入る。壁と床、天井以外はもふもふの布団で出来ている部屋は小さい女の子がよく遊びに来ているぐらい大人気だ。
「様子を見に来たよ、今日は大丈夫?」
「はい、とても健やかですよ」
「本を読んでいたの?」
「はい、ハリー○ッターを」
素敵ねと返すとにこりと笑いまた読み始める。……実を言うと彼はもう何ヶ月も同じ小説を読んでいるのだけれど、質問したりましては否定もしない。彼を行動にあれこれ口を出すのはナンセンスだ、どこに地雷があるのかわからないからこそ、そもそも歩かない。きっと彼の価値観で考えた結果、彼にとってはれっきとした理由でこれが一番だと判断したのだろう。同じ小説を何ヶ月も読む気は知らないけれど。
「そういえば、今日の朝ごはんは嫌いなブロッコリーが入ってたけど、大丈夫だった?」
「残しても何も言われませんでした、だからか今日はいつもより清々しいんです」
「それはよかったわね」
多分口を出せば癇癪が起こると看護師達も煙たがったのだろう、こんなに落ち着いた文学少年がどこをどうしたらあんなに物に当たる駄々っ子になるのかわからない。今日は知的な青年にほっと安心して、また今度と挨拶を交わした。
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