手紙

「何ですか、お話って」

 月花のあらたまった様子に、ティムは少し身構えた。

「私の親に会ってほしいんです」

「はい、それはかまいませんが……」

 ティムはなんだそんなことかという感じでホッとした様子だった。

「親御さんから会いたいといってきたんですか?」

「いえ、あなたのことはまだ知らせていません。でも、父から見合いをしろと手紙でいってきまして、断るにも明確な理由がないといけません。だからこの機会に、ティムさんのこともきちんと紹介しようと思ったのです」

「わかりました、お会いしましょう。詳細が決まったら教えてください」


 ティムの了解を得て、月花は父親宛に手紙をしたためた。



 お父様


 春とは名ばかりの寒さが続いておりますが、いかがお過ごしでしょうか。

 先日はお手紙を頂きありがとうございます。さて、お見合いのことですがせっかくですが、お断りしたいと思います。

 実は私には心に決めた人がいます。

 結婚を前提におつき合いしてまだ日が浅いのですが、ドイツ語と日本語を教え合う関係を既に長く続けていて、互いの人となりについてはよく存じております。ドイツの方ですが、日本を愛し、文化にも理解があります。

 つきましては、近々彼と共にお家を訪ねたいと思っておりますが、お父様にも是非会って欲しいと心から思っております。お父様のご都合をお聞かせいただければ幸いです。


月花



 月花は何度も読み直した。これを父親が読んだらどう思うか。いや、木根がいったように、伝えたいことを伝えてドーンと構えていればいいと思い直す。そして便箋を封筒に入れ、封をした。切手を貼り、祈りを込めてポストに投函した。コトンと手紙が底に落ちる音を聞いて、もうあとには引けないと気を引き締めた。


 手紙を出してから、もう届いただろうか、もう読んだだろうかと気になる毎日だった。古風な両親は携帯電話を持っていてもあまり使わず、したがって即時的な連絡手段がないに等しい。

 あくる日、またそのあくる日と音沙汰がないことに焦りと苛立ちを感じる。と同時に郵便受けを確認する度に返事が来ていたらどうしようと胸さわぎがする。そうして半月ほど経ったある日、学校から帰ると郵便受けに一通の手紙があるのを見つけた。父親からだった。この前のものとは違い、随分薄っぺらだった。部屋に入り、心臓を高鳴らせながら封を切る。


 そして、中の便箋を抜き出した。達筆な父親の文字が並んでいた。

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