修羅場
送られて来た写真の男性の顔は、馬のようであり虫のようであり、どのみち月花の好みからはかけ離れていた。いや外見はどうであれ月花の気持ちは決まっていた。
問題はどう断るかだ。ティムのことを引き合いに出すか……しかし、タイミングとして早すぎる気もするし、このことでティムへの印象を悪くしかねない。
そんなことを考えてろくに寝付けないまま朝を迎え、大学へと足を運ぶ。ゼミでは木根が相変わらずキャンキャン吠えたて、辺見はといえば昨日京橋で月花と会ったことなどまるでなかったかのように涼しい顔をしている。そして、木根の喜びそうなことをペラペラと話す。昨日のティムの励ましがなければ、すぐにでも飛び出したい気分だ。そして頭の中では、父親にどう返事しようか、そればかり考えている。
ゼミが終わるとそれを待ち構えていた優香がすり寄ってきた。
「あんな、今晩予定空いてる?」
「まあ……特に何もないけど」
すると優香がお参りでもするかのように手を合わせた。
「合コンあんねんけど、月花も参加してくれへん?」
「えぇ? だって私、一応〝交際中〟なんだけど」
「お願い! 女子の人数揃えてって頼まれてんねん。月花には誰も寄り付かんよう気ィつけるから」
かくして梅田のオシャレ系居酒屋にやってきた月花であるが、一応合コンに参加することはティムに伝えた。小さな隠しごとでも亀裂になりかねない。
男性陣は可もなく不可もなくといった面々だったが、恋まっさかりの月花にはどれも色褪せて見えた。愛想笑いにも疲れてつまらなそうにしていると、優香に肘で突かれた。
「あ、ごめん。もう少し愛想良くするわ」
「じゃなくて、あれ、キネセンじゃない?」
優香が指差した方向にいたのは、確かに木根尚子だった。その向かいには男性が座っていたが、互いに下を向いていて、どうも重苦しい雰囲気だ。
やがて男性の方が何かを話し始めた。それを聞いた木根はしばらく黙っていたが、急に立ち上がり、グラスの水を相手にぶっかけた。
「ひゃっ」
月花と優香は思わず声を上げた。ドラマでは良くみかけるシーンだが、まさか現実に目撃するとは。呆気に取られて見ていると、木根は一万円札をテーブルに叩きつけてツカツカと出て行った。
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