二百六十四話目 変わらぬ関係
「君たちは、
皆が無心で竿先を見つめている中で、ふとイーストンがそう話を切り出した。
「俺たちはない」
「ないです」
「イーストンさんと共闘した時くらいですね」
「そうだよね、今はあまり人の領域で見かけることがないから」
ハルカたちの返答に、イーストンはそう言ってまた少し黙り込む。イーストンの視線は竿の先から、地平線へとうつる。
オランズは森を挟んで蛮族たちの領土と接している。そのため本来、
アンデッドとも遭遇していないことを考えれば、相当運がいいと言えるだろう。
「じゃあ君たちは
「戦うのが大好きな奴ら」
「人を食べるのがいるってきいたことある」
「見たことないからわかんないです」
仲間たちの意見を聞きながらハルカは、神聖国レジオンで聞いた話を思い出していた。
一方で、オラクル教によれば、
どちらの側面も併せ持つのだろう、というのが未だ多くの
「恐らく、刹那的で、戦いを好む種族が多いのでしょう。ただ、それぞれきっと意思があり、大義があり、人と同じように社会性も持つ者たちなのではないでしょうか? 人と相いれるかはともかくとしてですが」
全員の意見を聞いてから、少し間をあけてイーストンは、竿を置いて、ハルカたちの方に体を向けた。目をつぶって深呼吸をしてから、ハルカたちに語り掛ける。
「僕は友人が少なくてね。友人に対して自分のことをどこまで伝えていいものか、結構悩んだんだ。……これから君たちに、僕についての話をしようと思うんだ。聞いてもらえるかな」
「好きに話せばいいだろ」
すぐにそう返したアルベルトに、イーストンは微笑み続ける。
「ありがとう。僕がこの先の島で生まれた話はしたね。あの島にはね、
「ふぅん」
「ふぅんって君ねぇ」
黙って聞いている三人に対して、リアクションを返しているのはアルベルトだけだ。あまりに普通に相槌を打っただけだったので、イーストンは苦笑した。
「まぁいいや。
「ふぅん。お前って何歳なの?」
「だから、ふぅんって君さぁ……。八十歳くらいだけど……」
「爺じゃん」
「……はじめて言われたよ」
イーストンは、岩からずり落ちるように座って、麦わら帽子を深くかぶった。アルベルトはそれを横目で見て、ため息をついて一度竿を縦にした。針先を確認すると餌だけがとられていて、小さく舌打ちをした。竿を自分の横におくと、イーストンに向き直って、ため息をつく。
「あのなぁ、俺はお前と友達になったんだよ。だからお前が実は王子様だろうと、
「……あぁ、うん。……そんなことはないけど」
「けど?」
「いや、そんなことはないよ」
「だろ。それよりお前、秘密話したなら、やっぱり一緒に冒険行けたりしないのか? お前、俺より強いんだからもっと一緒に訓練してぇんだけど」
「それは今は無理かな。一度父にも会ってこないといけないから。僕は亡くなった母に見た目がそっくりらしくてね、親馬鹿なんだよ、うちの父親」
「八十歳の子供の親馬鹿ってなんだよ、ただの馬鹿だろそれ」
「ホントだよね、そろそろ子離れしてほしいよ」
イーストンは笑って答えて、他の面々の顔も見つめる。
「アルは……、こんな感じだけど。皆はどうかな?」
「すっきりしてよかったですね」
モンタナが魚を釣り上げて、恐る恐るそれをつつきながらそういった。
「アルとやるより、戦う技術の勉強になるですから、僕としてもイーストンさんが早くチームに入ってくれると嬉しいです」
「おい、今俺のこと馬鹿にしたか?」
「してないです、ほんとです」
睨みつけるアルベルトと目を合わせることなく、モンタナは魚をバケツに放り込んだ。それを覗き込みに来たコリンは、モンタナに続いてイーストンに話しかける。
「前々から、王子様っぽいとは思ってたのよね。まさか本物とは思わなかったけど、そう言われても納得って感じ」
「今の話のメインはそこじゃなかったんだけどなぁ……」
「わかってるって。でも、イースさんは別に私たちのこと襲ったり食べたりしないんでしょ? だったら別に今まで通りでいいんじゃないかな。皆すーぐ前線に突っ込んでいっちゃうから、イースさんがいてくれると私も安心だし」
「いや、だから、一度島には帰るって言ってるよね……?」
出遅れてしまったが、ハルカもイーストンへ話しかける。イーストンが別れる前に大切な話をしてくれたのが嬉しかったし、この先も付き合いを続けていきたいという意思を、ちゃんと伝えておきたいと思った。
「私もイースさんがいてくれた方が安心感はありますね。それに、そちらの島に招待してもらう約束もしましたし。師匠の護衛任務が終わった頃にでも遊びに行っていいですか?」
「……なんだか決意を固めて話した僕が馬鹿みたいだ。こんなことならもう少し早く打ち明けておけばよかったよ」
イーストンは帽子をさらに目深にかぶり、海の方を向く。波が穏やかで、今は水面からの照り返しもあまり気にならなかった。
「遊びに行ってもいいってことですか?」
「……歓迎するよ。ハルカさんの好きそうな食事を用意すると約束する」
そう答えるイーストンの横顔は穏やかで、見える口元はわずかに綻んでいた。
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