二百二十五話目 成長率

「だから余計に思うんだけどな、あんたらホントに強いんだよな? お爺様から聞いた話だと相当なんだろうけどよ。俺はいやだぜ、あんたらが死んじまって、そこの赤ん坊だけ残るなんて。そうなるくらいなら俺一人で行ったほうがましだ」


 自分が親を亡くしたばかりだから、ユーリのことが心配なのだろう。一方ユーリはわかっているのかわかっていないのか、ニコニコしている。これまでの感じからすると、また危ない橋を渡ろうとしてることくらいは理解している気がする。

 ただユーリは意外とハルカ達が戦っている姿を見るのが好きなようで、それを期待している可能性もあった。


 ノクトがメイジーに笑いかける。


「強さの証明って難しいんですよねぇ。どうしたら信用できるんですか?」

「どうしたらって言ってもなぁ。そもそも俺は冒険者に詳しくねぇんだよ。この街にいる冒険者って言ったら、どぶさらいとか、土木工事とかばっかりしてるからな」

「まぁ、そうでしょうね。でも心配する必要はありませんよ。少なくともここにいる四人は世界を旅することのできる冒険者ですから」


 ノクトが順々にハルカ達の顔を見るのに合わせて、それぞれが頷いた。イーストンと目が合った時、彼はすっと目をそらし、ノクトは悪戯っぽく笑った。


「彼はおまけですが、旅人ですからやっぱり強いですよ。そうですねぇ……、私が思うに、このチームならエレクトラムの軍を敵に回しても勝てるんじゃないでしょうか?」

「そりゃあ吹きすぎってもんだ! ここの軍隊は精強だぜ」

「……運がよかったですねぇ。組織一つ潰すために雇うのには、お得な買い物だったと思います」


 アルベルトが話を聞いて笑った。


「ノクト、そりゃ褒めすぎじゃねぇか?」

「私たち四級冒険者よ?」


 続いてコリンも笑うが、モンタナは寝転がったままチラリとノクトの方を一度見ただけだった。


「こんなこと言っていいのかわかりませんが、あなた達は戦う者としての才能がありますよ。毎日限界まで鍛えていますし、身体強化もかなりの速度で習得しつつあります。実績と経験が足りないだけということを、この辺りで自覚したほうがいいでしょう。ハルカさんが異常なのは言うまでもないですが、君たちだって十分特級冒険者に上りうる資質を持っています。現段階で言えば遠く及びませんけれどね」

「……本当かよ、なんか今日のお前気持ち悪いぞ。やっぱり熱があるんじゃねぇの?」

「……あれ、ってことはもしかして、私もっと依頼料吹っ掛けても良かったのかな?」


 三人とも褒められたのに、反応が薄い。ノクトは苦笑しながらメイジーの方を向いた。ハルカは自分の扱いについて思うところがあったが、何も言えることがなかったので、片眉をあげて黙っていた。


「強さの話はいくら話しても参考にならないでしょう。ただ冒険者が依頼を受けるかどうかというのは、他人から強制されるものではありません。冒険者自身が決めたことで何が起ころうと、雇い主が気にすることではありませんよ。プライドの高い冒険者だったら自分を信用していないのなら雇うな、と怒り出すところです」

「そりゃ失礼した。そんな気で言ってたんじゃねぇんだよ」

「心配してもらっていたのは分かっていますよ、お気になさらずに」


 ハルカが笑って答えると、メイジーが長く息を吐いて、身体の力をぬいた。


「まだ始まってもいないが、あんたらが自信満々でなんだか少し安心した。さっき俺は死にかけたばかりだしな。死ぬ間際って怖いな。苦しいのもあるけど、自分から何かが抜けていくのがわかるんだ。ああ、もうだめだって思うと、その時やっと自分が何をしたかったのか分かったりするんだ。ホントは俺なんていない方が、組織も立ち直りやすいとか、ちょっと思ってたんだ。でも拗ねた気持で死んでもいいなんて思うもんじゃないな。死ななくてよかったぜ。ありがとな、えーっと、ハルカだっけか」

「いいえ、どういたしまして」

「それコリンにアル君とモン君だっけか?お爺様の友人がノクトで、赤ん坊と、そっちの色男は?」

「アルベルトだ」

「モンタナです」

「イースだよ。この子はユーリ」


 イーストンがユーリを自分の顔の高さまで持ち上げて、自分の名前を告げる。大会の時もそうだったが、正しい名前を告げないのには何か意味があるのだろうか。彼の生い立ちを知らないのでハルカには想像がつかない。

 逆に相手によってはちゃんと名乗っている理由も気になる。

 ただ信用してくれているだけと言うのなら、それはそれで嬉しいことだが、初対面の日に信用される要素なんかあったかなと、ハルカはぼんやりとその日のことを思い返していた。

 メイジーからの視線が外れると、イーストンはユーリを横抱きにして、ゆらゆらと揺らしてやっている。目が細められると赤い瞳は目立たず、同じ黒髪だけが目に付く。年の離れた兄か、若い父親のようにも見えた。


「なぁ、俺はこの街から出たことがねぇんだ。ウェストが戻るまで、あんたらの冒険の話を聞かせてくれよ」


 だらりとしてた身体から一転、前のめりになったメイジーがニカっと笑う。

 親交を深めるためには、相手のことを知るのが一番だ。彼女がこの年でそんな処世術を心得ているとは思えない。


 気分よく話し始めたアルベルトを見ながらハルカは思う。

 きっと彼女は多くの人に好かれて、立派な人物に成長していくのだろう。助けることができてよかった。彼女と知り合うことができてよかったと。










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