七十八話目 ルート選択
ハルカ達は冒険者ギルドのテーブルに地図を広げて話していた。北方大陸の南側を大きく表示させたもので、これは冒険者ギルドから発行されているものだ。各ルートの現在わかっている危険などについても記されており、結構値段が張る。一度購入した後は情報を仕入れながら自分で加筆して使うものだが、しばらく使っているとごちゃついてしまうので、新たに購入し直す必要があった。
ここにくるまでの道中計画はコーディ達に丸投げしていたので、地図の購入は今回が初めてだった。
本来の護衛任務はこうしたルートの選択や物資の補充計画も含められることが多い。コーディとの旅では本当に護衛だけに集中させてもらえる、初心者向けの良い旅だったと言えるだろう。
平面の図を眺めている限りであれば、アルベルトもコリンも方向音痴ぶりを発揮しない様で、まともなルート選択を提案してくれる。実際歩き出して右とか左とか、北とか南とか言われると、あっという間に迷子になってしまうのが不思議だった。
経路としては主には三通りある。
一番楽なのが、きた道を辿っていくルートだ。これなら補充も同様に行えるし、迷う心配も少ない。
二つ目のルートは北に大きく山を迂回し、ディセント王国内を進むものだ。こちらは山が少ないが、距離が長くなる。また通過する間に大きな町がなく、盗賊が出る確率が高い。
三つ目は南に逸れて、ドットハルト公国内を通過するルートだ。こちらは距離こそ短いが、街の数が少ない。途中で首都シュベートへ立ち寄るのであれば、距離も一つ目のルートとさほど変わらなくなる。また、一つ目のルート以上の険しい山道があるというのもデメリットだろう。
各ルートの情報が出揃ったところで皆が腕を組んで悩み始めてしまう。どうにも話が進まなさそうなので、年長者の務めと思い、ハルカが口を開いた。
「では、現段階でどのルートがいいか聞いてみましょう、アルはどうです?」
「俺はドットハルト公国を通りたいかな。年が明けて暫くすると首都で武闘祭ってのがあるらしいんだよ、それがみたい、出来るなら出てみたい」
「あ、私もみたい!有名なのよ、武闘祭」
二人の賛成に早くもルートが決まってしまいそうだった。ハルカとしてはなるべく危険の少ない一つ目のルートを選択したかったが、彼らの意見を聞いて考え直す。
冒険者なら冒険者らしい選択をしよう。
そう思ってモンタナの意見も聞こうと横を見ると、珍しくモンタナが、口を開いたり閉じたり、何かを悩んでいる様な仕草を見せていた。
心配になって声をかけようとすると、聞きなれない声の横槍が入る。
「君たち、シュベートに向かうのであれば頼みたいことがあるのだが」
全員が一斉に声の主へ振り返ると、そこには貴族っぽい立派な衣服を身に纏った優男が立っていた。見た目は二十歳前後。長く伸ばされた髪を後ろで一つに結んでいた。
「実は私もこれからシュベートへ帰らなくてはいけなくてね。君達は冒険者だろう?護衛の依頼をできないかと思ってさ」
「お、ちょうどいいじゃんか!」
アルベルトのはしゃぐ様子を見ながら、ハルカはモンタナの様子を窺う。それに気づいたモンタナもハルカを見上げた。
モンタナは首を振って小さな、ハルカにだけ聞こえる声で話す。
「大丈夫です、依頼が入るならシュベートに行くですよ」
「何か言いたいことがあったんじゃないですか?」
「大した話じゃないです。武闘祭の時期なら、父達が来てるかも、と思っただけです」
そう言って黙りこんでしまったモンタナに、ハルカも話を続けられなかった。
自身をドワーフの息子だと誇らしげに名乗っていたモンタナが、親と不仲である様には思えない。しかし実際モンタナはどうにも元気がなさそうに見えた。
耳はペタンとして、尻尾も垂れ下がっている。
気にはなったが、依頼をしてきた主人を放っておくわけにもいかず、ハルカもその男の言うことに耳を傾ける。
隣で黙って座ってたサラがきらきらと目を輝かせて両手を合わせて小さく呟いた。
「ハルカさんほどの冒険者になると、こうして勝手に依頼が舞い込んでくるんですね」
彼女は、いくらもういいよといっても毎日ハルカに付き纏っており、今ではすっかりストーカーの様になっていた。
もはやいるのが当たり前で誰も何も言わなかったが、実はハルカの小さな悩みの種でもあった。
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