五十六話目 コーディの冒険心

「そうか、君たちは遠征に出たことはこれが初めてだったっけ」


 十代グループに向き直ったコーディが説明を始めた。その中に一人精神年齢四十代が含まれていたが、知っているのは本人ばかりだ。


「とはいえ察することはできるかな。皆、村の方を見てごらん、あの辺りだね」


 夕暮れ時とはいえ真っ暗ではないから遠くに小さな家や柵があるのはなんとなくわかる。家の数からすると人口は百人程度の村ではないかと推測できた。冒険者の拠点なんかもなさそうだ。

 街道からほんの少し外れたところにあり、森や山が近くにある。木や鉱石などの資源を採取しに来たものが拠点にできそうだ。あるいは、今回のハルカ達のような旅をするものが物資の調達のために訪れることがあるだろう。


「元々あの村はアシュドゥルの街に暮らすものが、一旗揚げようと作り出した村だ。宿場町にするために頑張っていたようだよ。どこの国でもそうだけれど、ある規模以上の街を作ると、町長として大きな権限を持てたり、爵位をもらえたりするからね」


 村を眺めながら、ふんふんと黙って頷いているハルカを見て、コーディは話を続ける。


 コーディはハルカがこの世界の一般常識に疎いことをなんとなく察していた。オジアンを構っていた時も、冒険者としての立ち振る舞いも、パーティ内では年長者のはずであるのに、いつも動きにためらいを感じる。

 戦闘能力を考えるとどこかちぐはぐで、おかしな冒険者だと感じていた。しかしだからこそ面白そうである。


 色々教えてやろうと思い立ったコーディは、何かあるたびにハルカに教師のように説明をしてくれるようになっていた。一対一で教えると恐縮してしまいそうであったから、子供たち全員にという形で話しているのも、コーディの上手いところだった。


「一から街を作るというのはとても難しい。魔物もいる、山賊もいる、はぐれ破壊者ルインズもいる。町同士の交流では裏の読みあいをしなければいけないし、商売にしたって損をすると大変だ。一人で全部やる必要はないが、立ち上げた中の、信頼できる者達だけで、それらをすべてこなさなければいけない。立派な街を作り上げたときに見返りが大きいのも理解できるだろう?その上でだ。さぁ、あの村がどう変だと思う?そんなに難しい話じゃないね」


 真面目に聞いているハルカと違って、他の面々は村の方を見つめながら何か考え込んでいる節があった。


「炊事の時間なのに煙がでていないですね、それに柵の入口辺りに人がいないような気がする……かな?何かに襲撃された?」

「そうだね。じゃあ少し歩こう。デクトさん、ここからじゃあ遠すぎてよく見えない。いつでも退却できる準備をお願いね。じゃあ次だ。何に襲撃されたと思う?」


 コリンの答えに頷いて、デクトと打ち合わせながら歩みを進める。村を作るための障害をいくつかコーディが上げていたことから、流石にハルカも村が何者かに襲撃されたであろうことは理解できた。ただ何に、と言われるとわからない。それぞれの違いを想像できるほどこの世界に馴染んでいなかった。


「魔物、とか、破壊者ルインズではないと思うです」

「ほう、何でそう思うんだい?」


 驚いた顔をしてモンタナの方を向いたコーディ。この問いに答えを返してくるものがいるとは思っていなかったコーディは、モンタナに対する評価を上げた。いつもよくわからないことをしている子だと思っていたが、それだけではないらしいと考え直す。


「そうだったら、もっと戦った跡があるはずです。一方的にはやられないですから。でも、ないです、人の死体も他の死体も」

「……驚いた、私の見解と一緒だね。では補足の説明をしておこう。一つ、あの村の人口は百五十人程度、満足に戦える者はそのうち四十人程度だった。二つ、この辺りに大規模な賊の類がいるという報告は聞いていない。三つ、アシュドゥルを出る段階では、冒険者ギルドに村の救援依頼は出ていなかったし、そういった噂もなかった」

「この辺りで止まりましょう」


 丘を降りたあたりでデクトが声をかけて、村から見えづらい林の影に入った。

 コーディは現段階でまだ、村へ立ち入るべきか回り道をするかで悩んでいた。本人の勘としては訪れてみたほうがドキドキすることが起こりそうだと思っていたが、そんな根拠のないことに人を巻き込むのもどうなのだろう。

 最終判断を下すために、年若い者たちの意見も聞いてみようという考えから、この問答を続ける。


「さぁ、あの村には何が起こったのかな?誰か何か思いついたかい?」

「コーディさんの情報を聞いて、ですけど……」


 自信なさげな様子でハルカが口を開く。これから言おうとすることはただの想像であったけど、ありそうな展開でもあった。ハルカは昔読んだ軍記物や、ファンタジー世界の国盗り物語を思い出しながら話していた。


「誰かが計画的に、村の人を逃がすことなく全員、その、始末してしまったということではありませんか?」

「誰が?」

「誰が……まではわかりませんが、それなりに組織力のあるものが、としか……」

「そうだね。その通り、ここでこれ以上の勝手な想像をしても答えなんか出ないんだ」


 満足したコーディは頷いた。ほぼ満点の回答だ。もしこれがコーディが提示した情報抜きに導き出された答えだとしたら、間違いなく一流の冒険者であると言えるだろう。


「では、最後の質問だけれども」


 コーディは不敵な笑みを浮かべて若者たちを見渡した。


「君たちはその答えが知りたいかな?それとも怖いから尻尾を巻いて逃げるかな?」


挑発的な物言いは、若者たちが奮起して調べに行ってはくれないかという、コーディの希望から出たものだった。




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