五十三話目 関係半修復
レオがテントに戻っていったのをハルカは黙って見送った。心なしか速足だったのは彼の照れ隠しだったのかもしれないと思う。
さて自分たちもテントに戻ろうかと思ったところで、フレッドがやってきて周りをきょろきょろと見渡す。何かを探しているようだった。
「あれ、なんか随分人数減ってない?こっち手伝ってよ」
「あ、そうでした、すいません」
レオが去って行ったのは照れ隠しな部分もあったが、それだけではなく、やってくるフレッドを遠くに見ての逃亡だった。なんとも強かな少年だ。
狼たちの死体をを燃やし尽くすのには薪が明らかに足りなかった。まさか商品の木材を使うわけにもいかない。料理をするのと骨まで焼くのはわけが違うのだ。今から木を取ってきても終わるころには丸一日たってしまいそうだった。
結局最後にはハルカが魔法をバンバン発動させながらなんとか死体を燃やしきった。ぼろぼろの骨と肉体では流石にアンデッド化はしないだろう。
ハルカは適当なそれっぽい詠唱で、控えめに燃え続ける炎を出しておいた。これでハルカも5つ目の魔法を使えることになって、立派な魔法使いだ。本人はそうは思っていなかったが。
すべての作業が終わるころにはすっかり日が昇ってしまっていた。
「これだけ焼けば十分でしょう。私たちは少し休ませてもらいます。そちらも少し休んでください。出発前には声をかけますので」
デクトに促されて、各々が足を引きずりながらテントへ戻っていく。戦いのあとに朝まで作業するというのは結構な重労働であった。
後半はハルカ以外は炎を囲んでぼーっとしていただけであったので、一番よく働いたのはハルカだろう。流石に一人置いて先に休むのは気が引けたらしく、皆が最後まで付き合ってくれていた。
テントへ戻るとアルベルトが隅っこで小さくなって眠っていた。
コリンはどつきまわしてやろうかと思って腕を振り上げる。しかし、いつも大の字で眠っているアルベルトがミノムシのように丸くなっているのを見て、哀れになったらしい。その拳を下ろして、睡眠の邪魔をしない様に静かにため息をついた。
このパーティメンバーは結構みんな優しい。
ハルカはコリンの頭を優しくなでて、休むための準備にうつった。
先に起きて食事の準備をしていてくれたらしいコーディ達に混ざって、気まずそうな顔でアルベルトとテオが立っていた。彼らが食事の準備をする間護衛をしていたらしい。互いに互いのことは無視して目を合わせようともしない。似た者同士なのだから、仲良くすればいいのにとハルカは思う。
ハルカ達が起きてくる姿を見ると、ほっとしたような表情を浮かべてアルベルトが近寄ってくる。
「勝手に戻ってごめん、狼片付けてたんだろ」
「えい」
謝るアルベルトの頭に軽くコリンがチョップした。
「ホント大変だったんだから、でもいいわ、許してあげる」
「そうですね、先に起きて護衛していてくれていたみたいですし」
「です」
ぽんぽんとハルカがアルベルトの頭を軽くなでた。
食事をしていると、レオがとことこと歩いてやってくる。
まるで悪びれた様子もなく、ハルカ達の方に歩いてきて、モンタナの横に座った。一人で遠くに座っていたテオに気づくと、手招きをして自分のそばに呼び寄せる。逡巡したあと、思い切って立ち上がったテオは速足で歩いてきて、レオのそばにどかっと腰を下ろした。
「えーっと……、アル。レオ君がね、今日から魔法について色々教えてくれるそうです。私たち魔法について正しい知識がないみたいですからね。仲直りして、いろいろ教えてもらいませんか?」
「そっ、ぐ……」
アルベルトは反射的に何かを言い返そうとして、一度口をつぐんだ。
アルベルト自身も魔法についてもっと知らなければいけないと思ってはいたし、何より昨日の夜に、ハルカの仲間のくせに、という言葉が胸に突き刺さったままだった。
今までだって、ハルカが丈夫で強いから何とかなっていただけだ。
レオの言うことが本当であるなら、何処か早い段階で仲間を失って、こんなに順調に冒険者を続けていられなかったかもしれないのだ。
言い返さないアルベルトを不審に思ったのか、レオが身を乗り出してアルベルトの方を覗き込んでいる。
アルベルトは目を閉じて大きく深呼吸した。
「……そうなのか、じゃあ、今日からよろしくな、レオ」
「教えてあげるんだから、レオ先生じゃないの?」
「………………よろしくな、レオ先生!!」
長い溜めのあと、怒りを抑えてレオの軽口に付き合ったアルベルトは偉かった。
目じりがぴくぴくとしていて怒り出す寸前だったが、我慢できたのだから花丸である。ハルカはアルベルトの背中をなだめるように撫でてやった。
レオは思惑がはずれて首を傾げた。ここで怒り出したら彼だけ仲間外れにしてやろうと思っていたのに、うまくいかなかったからだ。
でもそのおかげでわかったこともある。
かなり短気であるはずのアルベルトが、それを抑えてまで自分から魔法について学ぼうとしている。彼は魔法使いでないから、それが仲間であるハルカの為であろうと推測できた。
仲間想いで、悪い奴ではない。
レオのアルベルトに対する評価が少しだけ上向きになった。
「冗談、別にいいよ、レオで」
「え、おいっ」
そういったレオの横では、ぎょっとした顔でレオの袖を持ち、揺さぶるテオの姿があった。心境は『嘘だろお前、裏切るのかよ』であった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます