四十七話目 想定
モンタナと仲良くなった双子は、たまにハルカの様子を窺うようにちらちらとそちらを見ていた。ダークエルフという珍しい種族であるのに加え、他の3人が武器を持っているのに対し、ハルカだけが何も持っていないのが気になるようだった。
「なぁ、モンタナ、あいつどうやって戦うんだ?」
「教えてあげないです」
「なんでだよ」
「冒険者は戦いかた人に教えないです。人のこと教えるのはマナー違反です」
「お前案外ちゃんとしてるんだな」
「です」
でもさ、とレオが続ける。
「あのローブ、魔法使い用じゃない?」
「そう言えばそうだな……」
後ろからずっと観察されているのにハルカは全然気づかない。
この世界の人間は日常的に戦いに身を置いてるものも多いせいか、気配に敏感なものが多い。こちらへ来て半年のハルカにそれを求めるのは酷であった。
他の全員が観察されているのに気づいているのに、本人だけが気づいていなかった。
アルベルトやコリンは、いつものハルカのお間抜けであることが分かっていたが、レジオンの一行は違った。その視線をまるで気にする様子がなく自然体に振る舞っているのを見て、ハルカに強者の余裕のようなものを感じ取っていた。
ところでこの世界の犯罪者の扱いについてなのだが、基本的に賊の類は皆出くわしたもの達がそれぞれで罰を与えていい。
とはいえ大抵の場合は撃退したらその場で殺してしまう。長い旅路にごく潰しを一人余計に連れて行く余裕等普通はない。
大きな街に連れて行ったところで、良くて二束三文払われて、面倒そうに追い払われるのがオチだ。下手をすればお前らでなんとかしろと追い払われかねない。
そうなると唯々連れてくるだけ損になる。だからやっぱりその場で殺してしまう方が正解だった。
ただし相手がお尋ね者である場合は必ずしもそうではない。
他国のスパイであったり、大事な情報を握っているような人物は、生きていたほうが都合のいいこともある。ただの犯罪者ならその場で殺してしまえば済むが、どちらのタイプであるかはよく確認する必要があるだろう。
どちらにしてもお尋ね者を捕まえたり殺したりすると、大金と名誉を得られるので、バウンティハンターなんてタイプの冒険者もいたりする。
なぜこんな話をしたかといえば、そのことについて今ハルカが頭を悩ませていたからだ。
この依頼につく前に、道中に賊が出ることがあると知り、ハルカはその対応について一通り学んできた。
平和な国で生まれ育ったハルカは、人と喧嘩をしたこともない。
もし自分や仲間の命を狙ってくるような奴が相手であっても、その命を奪うことが突然できるようになるとは思えなかった。
折角できた気のいい仲間達を失いたくなかったから、頭の中では何度もシミュレーションして覚悟はしてきたつもりだが、やっぱりいざその時のことを想像したとき、ハルカは上手くやれる自信がなかった。
考えただけで、表情が固くなり息が荒くなるくらいだ。ハルカはこの旅の間に賊が現れない様に毎朝晩祈っていた。
旅の夜というのは警戒が必要だ。不寝番を立てる必要がある。
今回の場合は騎士達と、護衛であるハルカ達のグループに分けて、交互に休むことはできている。
日が落ちる頃には片方が休み、六時間ほど眠ってから、もう片方のグループと交代する。
旅に出て四日目の夜、先に休んでいたハルカ達は騎士のリーダーであるデクトに声をかけられ、見張りの交代を告げられる。
「交代の時間です。なんだか今日は狼の遠吠えが激しいから気をつけてください」
「……はい、お疲れ様です、承知しました」
ハルカはぱっちりとすぐに目を覚ましたが、他の3人は目をこすりこすり、眠たそうにしている。
「あまり擦ると腫れてしまいますよ」
そう言ってハルカは魔法でウォーターボールを宙に浮かべ、布を濡らし、三人の顔を順番に拭ってやる。
「つめてっ、んでも目は覚めた!」
腕と体をぐーっと伸ばして、アルベルトがニカっと笑った。まだ眠たそうにしているモンタナは、のたのた歩きウォーターボールにそのまま顔を突っ込み、ぶくぶくと息を吐いてから、顔を離した。
「あー、もー、頭までびしゃびしゃ!」
コリンにガシャガシャと髪と顔を拭かれるが、されるがままになっている。
「風邪ひかないでくださいね」
ウォーターボールを茂みの中に投げ入れて、ハルカは焚き火のそばに置いた丸太に腰を下ろした。後から三人も追いかけて、それぞれ焚き火を囲うように丸太に座った。
「モンタナ、目は覚めましたか?」
「大丈夫です」
袖を振って、いつものように変わった色の石を取り出したモンタナが、ヤスリでそれを削り始める。いつも袖から色々出してくるので、ハルカは一度あの中を全部見てみたいと思っていた。たまに蛇の抜け殻とかがでてきたりするので、ちょっと怖いもの見たさもあった。
「お前が一番気配に鋭いからなー、寝るなよー?」
アルベルトが頭の後ろで手を組んで、くつろいだ様子でモンタナに言うと、もう集中し始めたのか、モンタナは返事はせずうんうんと2回うなづいた。
「こんなでもいつも一番早く何か来るのに気づくもんね、モン君」
「そうですね。私はいつもギリギリまで気づかないので、頼りっぱなしで申し訳ないです」
「ハルカはその分派手に魔法を撃ってくれればいいの」
ばーん、と言って指先をハルカにむけて悪戯っぽく笑うコリンにハルカも少し笑う。そんな二人を見ながら、アルベルトが小さい声でつぶやいた。
「なんか、確かに今日狼がやけに吠えてるな……」
静かな森の中に狼達の遠吠えが響いていた。
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