かりんと、みっくす
初月・龍尖
それはある夜の
朧月の下、河原でシュウイチは酔っていた。缶の酒1本でぐでんぐでんだった。
イヤなコトがあったので憂さ晴らしに普段飲まない酒に手を出してこのザマだ。
「あ゛ー、あのクソ店長引き裂いてやりてえ」
大声を出すと通報されるので小声で叫ぶ。
そして、酔って叫んだら……。
「ぐえー」
もちろん吐く。
「きもっ、ち、わるっ。こんな、もん、よく常飲できるな。尊敬するわ……。ぐぺっ」
腹に収まった酒を全て吐き出し一緒に買っておいたミネラルウォーターを胃に流し込む。
そして、
「腹、減ったなあ。腹いっぱい、食いたいなあ」
月を見上げてシュウイチは願いを告げた。
顔を朧気な月へ向けているとふと何かが鼻に引っかかった。
「んー、何だ? ……イキモノの匂いだな。状態は衰弱。性別は多分、メス」
怠い体にムチを打ってシュウイチは匂いの方向へノロノロと向かった。
草をかき分け見つけたのは全裸の女の子。
「……まだ、息がある。救急!」
シュウイチは慌てて端末を引っ張り出し緊急通報をした。
『こちら緊急センター』
「女の子、多分人化動物。河原に打ち上がっています」
『位置情報確認。すぐに救急を送ります。端末のバッテリーに余裕はありますか?』
「大丈夫です。気道確保と体温確保しておきます」
『お願いします。警察の方にも連絡をしましたのでその場で待機を』
「了解です」
その後、2つ3つやり取りをしていると救急が到着した。
「こっち、ここです」
シュウイチが端末のライトを点けて手を振り場所を知らせると救急隊員は小脇に担架を抱えてやってきた。
「この子がそう?」
「そうです。全裸だったので俺の上着をかけて」
救急隊員は少し太り気味な女の子を担架に手早く乗せるとシュウイチに言った。
「一緒にお願いします。警察の方が病院の方へ来るそうなので」
「はい。分かりました」
シュウイチは担架と共に車に乗り込み、車は病院へと発進した。
女の子が立てる寝息の音だけが車の中を満たしていた。
病院に到着して最初に行われたのは警察からシュウイチへの質問攻めだった。
なぜ、なぜ、なぜ。
シュウイチは上司へのイライラが酒と一緒に吐き出されていて賢者モードだったのか淡々と”なぜ”に答え続けた。
警察の質問攻めが終わると今度は病院からの質問攻めだった。
同じ様な質問が多かったのでシュウイチは情報共有しろよなどと思った。
やっとの事で開放されたシュウイチは当直医による報告を受けた。
「彼女、やはり人化動物で間違いないですね。簡易検査ではカエル種と出ています」
「カエル……、ですか。川で遊ばせていて居なくなった、とか?」
「捜索願を確認してみましたが出ていませんでした」
「え……? じゃあ、あの子は何処から?」
当直医は首を振った。
「分からない。そうとしか言えないです」
「そう、ですか」
「しばらく、ウチで保護する事となります。仮ですが保護者が必要なんですが……」
「俺に、保護者になれと?」
「第一発見者が仮保護者になるのは暗黙の了解のようなものでして……」
そこでシュウイチの頭にある顔が浮かんだ。
動物たちと戯れ、笑う顔。
「分かりました。仮、ですよ。仮でいいので保護者になります。誰か良い飼い主を見つけるまで」
「はい。仮で登録しておきます。名前は、どうしましょう」
「名前。名前は、かりん。かりんでお願いします」
部屋の片隅に置かれた半分潰れた酒の缶にでかく”花梨酒”と書かれていたのが目に入ったからだ。
(どうせ仮だ。引き取った保護者が本当の名前を付けるだろう)
そう思って適当に付けた。
「では、”かりん”と。かりんちゃんが起きましたらこちらの栄養剤を食べさせてあげてください。一応、錠剤と粉末と用意しておきましたので」
「え? 俺が食べさせる?」
「あ、お仕事がありました?」
「いや、仕事は……。時間は、ありますけど」
「では、保護者としてお願いします」
「はあ……」
流されるままにシュウイチはカエル娘、かりんの部屋へ案内された。
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