雨と晴れと君と俺と

 俺たちは公園の四阿から雨上がりの虹を見ていた。

 先程までの雨が嘘の様に晴れ、上がった気温と湿度がまさにこの季節と言った状況を醸し出していた。

「本当に晴れたわね」

「本当に晴れましたね」

「半信。いいえ、四信くらいだったのだけれど」

「俺だってそうですよ」

 俺たちが休日をわざわざ使って検証していたのは最近使われはじめている雨雲予測情報と言うやつだ。

 今日はこの時間から晴れる。

 その情報を元にこの四阿で色々とつまみながら近況報告をしていたわけだ。

「しかし、ぴたりと晴れましたね」

「まさかこんなに晴れるなんて。技術の進歩はすごいわね」

「あ、あと2時間くらいしたらまた降ってきますよ」

「本当? なら早く片付けて帰らないといけないわね」

 元々晴れたら帰る予定だったのでお互いに持ってきたものを手早く詰めて四阿をあとにした。次に会うのはいつにしようかと話しながら。




 

 

 次の日からはずっと雨だった。

 

 

 


 

 会えない日々が続いていた。

 陰鬱な雲と鬱陶しい雨。

 来る日も来る日も代わり映えのしない仕事。

 俺も彼女も忙しく連絡さえまともに取れなかった。

 予定が合いそうになれば大雨。忙しければ晴れるという始末。

 もうそろそろ月が変わってしまうと言う日に彼女から連絡が入った。

 あの喫茶店で会いましょう、待っています、と。

 

 


 

「久しぶりに会うと本当に思う。かかくんって変わっている」

 いつもの喫茶店で注文したホットココアをすする俺を見てれーこさんはこぼした。

「俺には日常の様な感じなんですけどね」

 近頃冷房があまり効いていない店は貴重だ。ガンガンと効かせて温かいものを食べるのはいいと思うけれど俺としては冷房はあまり好きではない。腹が下るし。

 じんわりと汗がにじむ店内で熱々のココアを含み味わってから飲み込む。れーこさんと付き合う様になってからこうやって味わいながら飲むのがくせになってしまった。

「れーこさんはどうしてアイスコーヒが好きなんですか?」

 ふと浮かんだ疑問だ。

「かかくんこそ何でいつもホットココアなの?」

 疑問を疑問で返されると困るなあ。なんて眉間を寄せると彼女は微笑んで俺の疑問に答えた。

「私は元々冷たいものが好きだったの。アイスコーヒーが好きなのはその延長。ただそれだけよ。かかくんは?」

「俺も腹が弱いから温かいものを飲む事にしているだけです。れーこさんと同じ様な感じですね」

 そう言ってふたりで笑い合っているとれーこさんは実はねと言いよどんだ感じで話を始めた。

「かかくんにプレゼントがあるの」

 机の下から少し大きめのびんを出して俺の方へ寄せた。

 びんにはしょうがのはちみつ漬けとラベルが貼られていた。

「あ、嬉しいです。家ではいつもはちみつしょうがを飲んでいるんですよ」

「私って冷たいものをひたすら食べるじゃない? だから定期的に買っているのよ」

「へえ、そうやって体を温めているわけなんですね」

「そうしないとに、妊娠できなくなるってお医者さんから言われていて……」

「えっ。ええっ!」

「この歳になるまで食べすぎたせいでダメージが大きいらしくて。せっかくかかくんとお付き合いできて、け、結婚前提だって思っているから子供も欲しいって……」

 アイスコーヒーをストローでかき混ぜながらうつむくれーこさんは少し小さく見えた。

「俺も。俺も一緒に体調改善していきますから。そんな泣きそうにならないでください。俺もせめて冷房を人並みに当たっていられる体にはなりたいですから」

 俺の言葉にれーこさんは明るい顔になった。

 そうして二人三脚でお互いの体調を改善していっていつの間にか同棲するようになり俺たちは結婚し自然と子供が出来た。

 

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る